ビビビ・ビ・バップ 書評|奥泉 光(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年8月12日 / 新聞掲載日:2016年8月12日(第3152号)

ビビビ・ビ・バップ 書評
ジャズとSFの魅惑の協演 鮮やかな手際で壮大なテーマへと導く

ビビビ・ビ・バップ
出版社:講談社
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ビビビ・ビ・バップ(奥泉 光)講談社
ビビビ・ビ・バップ
奥泉 光
講談社
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ジャズとSFの協演。意外な組み合わせかと思いきや、最後まで読めば最高のコンビだと体感する。

二〇二九年、人類は「大感染」というコンピューター・ウィルス災禍を経験。出所不明のウィルス29virusが、世界中のコンピューターを狂わせ、二千万の人命と膨大な知的財産が失われた。それから数十年。復興を遂げた人類は、再度の大感染に怯えつつ、仮想現実区間や人間そっくりのアンドロイドを生み出すまでにいたる。人間の生活は、健康管理から交通までコンピューターにより徹底的に管理され、人間がソフトウェアよりも良いパフォーマンスを発揮できる分野は、ほぼ皆無となった。

主人公・木藤桐はフォギーという芸名をもつジャズピアニスト。ロボット製作販売の多国籍企業・モリキテックの「偉い人」山萩貴矢からの依頼で、仮想墓の音響効果の調整をしている。この時代に、アナログのジャズピアノだけで生計を立てることは難しいのだ。山萩は一三〇歳を超えていて先は長くない。クオリティの高い仮想墓に、全脳送信(Total Brain Uploading)技術を用いて、自分をデジタルデータ化し、「不死」を得るのではないかとも噂される。

実は、山萩自身は技術的限界からTBUすることを、すでに放棄していた。しかし、予備調査で得たデータが山萩の死を目前に焦った経営陣によって再利用される。コンピューター上に再構築されたデジタル山萩は、勝手に勢力を拡大し、とんでもない計画を推し進めていく。

タイトルにあるビ・バップとはモダンジャズの骨格。最初にテーマを演奏し、あとは自由な即興演奏を続けるスタイル。フォギーの職業から分かるとおり、作中にはふんだんにビ・バップが登場する。ヴァーチャルで、あるいはアンドロイドで復活した伝説的なジャズプレイヤーたちと、フォギーは即興で演奏する。ジャズに詳しいものなら、一度は考えたことがあるだろう「夢のバンド」がここにはある。

ビ・バップはジャズだけではない。山萩は、ヴァーチャル/アンドロイドで、著名な落語家も再現する。古今亭志ん生と立川談志だ。談志の落語を聞いたフォギーは、それもビ・バップだと言う。

そしてこの物語全体も、またビ・バップだ。SFというジャンルには、先人が生んだアイディアを、自分流にアレンジする「即興演奏」の要素が強く入っている。例えば「タイムマシン」や「ファースト・コンタクト」といったテーマで書かれたSF作品は、数多くある。それでもこれらをテーマにした作品が今も作られているのは、落語の定番の話のように、読者は作者の即興、テーマをなぞりながらいかにテーマから離れられるのかという技を、楽しんでいるからだ。

さらにSFは、現在をテーマに未来を自由な即興として重ね合わせる。作中の古典芸能アンドロイドたちは(落語家だけではなく棋士も出てくる)、大阪大学のロボット研究者・石黒浩が作った「桂米朝アンドロイド」や「マツコロイド」がおそらく発想の源にある。これら既存のテクノロジーを、いかに作品の中で使うか。山萩の仮想墓に二〇世紀の新宿がその猥雑さのままに構築されていることも、仮想現実技術の使い道として面白い。

アイディアをアレンジすること。現在のテクノロジーの未来での使われ方を想像すること。これらはジャズのビ・バップ、テーマ/即興演奏と確実に共鳴している。

あらすじだけ抽出するとゴリゴリのハードSF。文体はソフトで時にユーモラス、ストーリーと設定はバランスよく配置され、読みやすい。気が付くと「人類の進化とは何か」と壮大なテーマに読者を導く筆者の手際は鮮やかだ。ジャズは好きだけどSFはちょっと、という人でも存分に楽しめる。
この記事の中でご紹介した本
ビビビ・ビ・バップ/講談社
ビビビ・ビ・バップ
著 者:奥泉 光
出版社:講談社
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