「神」の発見 -銀文字聖書ものがたり- 書評|小塩 節(教文館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年10月14日 / 新聞掲載日:2017年10月13日(第3210号)

「神」の発見 -銀文字聖書ものがたり- 書評
ゲルマン世界の歴史を語ることできわめて今日的な問題を提起する

「神」の発見 -銀文字聖書ものがたり-
著 者:小塩 節
出版社:教文館
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「北欧スウェーデン南東部のウプサラ大学カロリーナ図書館に、スウェーデンの誇る国宝で『銀文字聖書』と呼ばれる古代ゴート語の聖書写本がある。」と始まる本書は、この西暦520年のころに制作された古い写本をテーマにしているのだが、実はきわめて今日的な問題を提起していると言える。

ユダヤ教の世界に現れたイエスは、人間としては宗教改革者にほかならず、そうであったがゆえに既存の権威に憎まれて十字架上で刑死を遂げることになったのだが、そのイエスに始まる、もともときわめてローカルなキリスト教が、やがて世界宗教となって人類の歴史に大きな役割を果たすにいたる上で、古代ゴート語の聖書の出現は決定的ともいえる一歩をなしたのであった。

この『銀文字聖書』の原本を書いたのは誰だったのか。それは4世紀後半に、ローマ帝国支配下の下流ドナウ河畔にいた、ゲルマン民族そしてゴート人最初の司教であったウルフィラという人物である。ゴート族の有力者の子として生まれた彼は、ギリシャ人の母の下でクリスチャンとなり、語学の才を発揮して早くから公の舞台に登場し、やがてローマのコンスタンティ―ヌス大帝のキリスト教への改宗という歴史の大転換に重要な役割を演じた教会指導者エウセビウスに目をつけられて、ゴート族への布教という任務を負う司教に任じられたのであった。時は西暦341年、ウルフィラ30歳であったという。

キリスト教の布教には、対象者の母語で書かれた聖書が無ければならない。ところが当時のゴート族の母語であるゴート語は、音声言語としては完成されていたが文字をもたなかった。そこでウルフィラはまずゴート語のための表音文字を創ることから始めることになった。そのうえで彼は、ギリシャ語あるいはラテン語、ヘブライ語の文書として存在していた新・旧約聖書のゴート語訳に取り組み、結局その訳業を72年の生涯の終わりまでかけて完成させたのであった。

この翻訳の写本の『銀文字聖書』がスウェーデンの国宝となっているのは、その原本が実にゲルマン系諸民族のキリスト教受容の門戸を開いたからに他ならない。もともとゴート人の宗教は八百万の神々を拝む多神教で、絶対的な唯一の神の存在を表す言葉はなかったから、ウルフィラにとって最初の、かつ最も難しい問題は聖書の「神」をどう表記するか、であった。彼は安易に借入語に頼るのではなく、ゴート人の心に響く言葉を求めて苦心惨憺の末、古代ゲルマン人の一部が使っていた「グス」という言葉を用いることにした。この語が英語のGod、ドイツ語のGottなどの基になり、キリスト教がゲルマン系諸民族に「土着」し、世界宗教へと大きく発展する結果を生んだのであった。

このようなゲルマン世界の歴史を語ることで、著者は日本を含むアジアにウルフィラのように「『神』を発見した」人がいたかという問題を投げかけているように思われる。少なくとも現在の日本のキリスト教において用いられている言葉を、改めて検討し直す必要があるのではないだろうか。
この記事の中でご紹介した本
「神」の発見 -銀文字聖書ものがたり-/教文館
「神」の発見 -銀文字聖書ものがたり-
著 者:小塩 節
出版社:教文館
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