Touch the forest, touched by the forest. 書評|紀 成道(赤々舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年10月14日 / 新聞掲載日:2017年10月13日(第3210号)

Touch the forest, touched by the forest. 書評
正統的なドキュメンタリー 
自然に包まれたときに感じる解放感と喜びを思い出させてくれる写真

Touch the forest, touched by the forest.
著 者:紀 成道
出版社:赤々舎
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紀成道がこの写真集で撮影対象としているのは、北海道、苫小牧の精神科病院である。自然に恵まれた環境を生かし、森林療法、園芸療法を行っている。森に入るのは入院患者だけでなく、かつてここにいていまは社会復帰をしている人たちもやってくるという。森を介したコミュニケーションの場が生まれているのだ。紀は病院のなかと森での彼らの活動を、時間をかけて丹念に撮影している。写真家のたしかな視点を感じさせる正統的なドキュメンタリー写真集である。

精神科病院を撮影した写真で思い出すのがリチャード・アヴェドンの写真集『Nathing Personal』(一九六四年)だ。アヴェドンは一九四〇年代後半からからファッション写真、ポートレートの分野で高く評価された写真家である。『Nathing Personal』もまたポートレートが主題になっている。精神科病院が登場するのは後半で、その表情から心を病んでいるとわかる人々の苦痛に歪んだ表情や、うつろなまなざし、殺風景な入院環境が写されている。アヴェドンの狙いは、メディアに登場する機会の少ない彼らの姿を捉えることであり、つまりは見えない人々を可視化することにあった。

しかし、紀成道の写真集にそうした「見えない人々」の姿を期待すると肩すかしを食らう。グレートーンを基調にした穏やかなモノクロ写真に写っているのは、森のなかを散策するごく普通の人々にしか見えないからである。むしろ、光と影を繊細に捉えた写真から感じ取れるのは森にはさまざまな発見があるということだ。木々の幹の模様、水面に浮かぶ波紋、人の頭よりも大きな葉。地面に落ちている木の実や枝葉の美しさ。病院での生活もたしかに描かれてはいるが、印象に残るのはそうした森の小さな奇跡であり、その奇跡に触れることを純粋に楽しんでいるように見える人々の姿である。タイトルは「森に触れよ、森に触れられよ」というくらいの意味だと思うが、その通り、彼らは森に触れるだけでなく、触れられてもいる。

写真は見る者の記憶を刺激し、言葉を引き出すきっかけになる。私にとって、これらの写真は自然に包まれたときに感じる解放感と喜びを思い出させてくれた。カバーにあしらわれた木の葉は本物で、当然のことながら一冊ずつ異なる。そんなところにも、作家が写真集を手にした人にそれぞれの「自然」を思い起こしてほしいという意図を感じた。
この記事の中でご紹介した本
Touch the forest, touched by the forest./赤々舎
Touch the forest, touched by the forest.
著 者:紀 成道
出版社:赤々舎
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