欲望と誤解の舞踏  フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド 書評|シルヴィアーヌ・パジェス(慶應義塾大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年10月14日 / 新聞掲載日:2017年10月13日(第3210号)

欲望と誤解の舞踏  フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド 書評
鋭い視点で抉られた批評的な理論 
日本の舞踏はいかに受容されたのか

欲望と誤解の舞踏  フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド
著 者:シルヴィアーヌ・パジェス
出版社:慶應義塾大学出版会
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当たり前のことだが、優れた研究は批評的であり、優れた批評は研究的である。そもそもアカデミズムと批評を分かつことは日本の土壌に過ぎない。本書を読むと、まさにそのことを痛感させられる。

この本は、フランスにおいて日本の舞踏がいかに受容されたのかを歴史的にひもとくだけでなく、舞踏が導入されていくさまざまな契機を分析する。タイトルにもあるように、フランスという場所から舞踏を見る欲望の視点として、時に意図的に、時に恣意的な誤読があったことを読み解くのだ。それはよくある比較文学を名乗った受容の歴史とは一線を画す。

細やかに述べられるなかから、いくつか取り上げてみる。一九七八年を「決定的な年」として始まるフランスにおける舞踏は、たしかに数多くの舞踏を代表するものたち、大野一雄、田中泯、カルロッタ池田、室伏鴻、そしてパリ市立劇場を拠点とした山海塾などなど、第一線で活躍するものたちの活動によって受け入れられた。しかし、ひとくちに舞踏といっても多様だ。元来の名前であった「暗黒舞踏」から「舞踏」へと呼び名が変わるなかで、舞踏という形態のダンスへとカテゴライズされイメージは作られた。そのイメージに受け入れられづらかった、軽さもある笠井叡やスペクタクル的な麿赤兒の舞踏との対比は、日本におけるその舞踏家や作品の重要度との違いが際立つ。

また、記号としてのヒロシマと舞踏が結び付けられたこと。ヒロシマの灰の上に生まれたかのような白塗りの身体、大量死や崩れ落ちる皮膚。その読み方は、実践者たちをはじめ日本側の視点からは思いもしないことだっただろう。しかし、同時にそのわかりやすさによって流通したことも頷ける。他にも、エキゾティシズムとして想像された日本とその身体の結合点が舞踏であったこと。そこでは同時代的に関係したニューレフトの学生運動やそれを背景とした新しい芸術運動である舞踏という日本の文脈は捨象された。

また、フランスが発明したとされるヌーヴェルダンスである「コンテンポラリーダンス」という、カテゴライズされたダンスの周縁に舞踏が位置付けられたことは、どのような形でコンテンポラリーダンスに影響を与えたのか。白眉の一つは、まさにそこだ。それは、モダンダンスとの関係につながる。フランスにおいて看過されたかのようなモダンダンスを、舞踏が代捕するわけではないにしろ、どのように作用したのかを論じるくだりは興味深い。むろん、これらは日本におけるオリジンとしての舞踏という紋切り型の図式と、モダンダンスとの関係にも一石を投じるようだ。

緻密に、かつ正確な舞踏への身体性や身振りへの記述をベースにしながら、フランスでの受容の歴史に沿って、舞踏がシフトされていくさまが、同時代的な評を多様に引用して、研究としての厚みをもちながら、理論的に論じられる。

だから、単にフランスにおける舞踏の受容史にとどまらない。舞踏に焦点が絞られるが、異なった文化が摂取される際にはどのようなことが起こるのか、幅広い視点がある。それは一元的に述べられるものではないが、しかし、思わず日本の演劇がどのように受け入れられているのか。もしくは、そもそも日本の文化一般の受容の形態とはなんなのか、様々な疑問がわく。いわく、他者を自己の欲望においてどのように見出しているのか、と。それがどのような過程を経て浸透して行くのか、いくつもの偶発性と必然的に起こらざるを得なかったことが、複雑な取り込みとなって現れる。だからこそ、その深度と射程はフランスでの舞踏の歴史という研究にとどまらず、鋭い視点で抉られた批評的な理論の二つを併せ持っている。(北原まり子・宮川麻理子訳)
この記事の中でご紹介した本
欲望と誤解の舞踏  フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド/慶應義塾大学出版会
欲望と誤解の舞踏  フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド
著 者:シルヴィアーヌ・パジェス
出版社:慶應義塾大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
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