オースティンの「高慢と偏見」を読んでみる 「婚活」マニュアルから「生きる」マニュアルへ 書評|鹿島 樹音(大阪教育図書)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年10月14日 / 新聞掲載日:2017年10月13日(第3210号)

オースティンの「高慢と偏見」を読んでみる 「婚活」マニュアルから「生きる」マニュアルへ 書評
快読、講談調で読むオースティン(人生に役立つ格言付き)

オースティンの「高慢と偏見」を読んでみる 「婚活」マニュアルから「生きる」マニュアルへ
著 者:鹿島 樹音
イラストレーター:市原 順子
出版社:大阪教育図書
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二〇一七年は英国の作家ジェイン・オースティンの没後二百年である。この夏、イングランド銀行は、オースティンの肖像画を使った新しい一〇ポンド紙幣の発行を発表した。九月から出回っている。今や英国の顔となったジェイン・オースティン、読書の秋を迎え、代表作『高慢と偏見』をじっくり読もうという人も多いだろう。翻案ものも含め、作品の殆どが映像化されているオースティンだが、やはり小説は本で読んでこそ、である。

ところで、オースティンの小説は、文学作品としては読みやすい部類に入る。主題はヒロインの結婚にいたる田舎の数家族の話。しかし、侮るのは禁物だ。ほんとうは鋭い人間観察を機知と皮肉で笑わせながら、端正な英語で、深い思考の過程をヒロインと共にするのがオースティン文学なのだ。
 とはいえ、若い人たちの間で本を読む習慣は薄れ、読書の技術は衰える一方、なかなか一冊の本を読み通せないのが現状だ。本を読まなくなったのは、実は若者だけではない。悠長な小説にはつき合えないという「息の短い」人のために、ぴったりの本がここにある。鹿島樹音編著訳・市原順子印刻『オースティンの『高慢と偏見』を読んでみる』という一冊。オースティンには昔から熱狂的なファンがいるが、鹿島おばさまもそのひとり。本職は「オースティンと自分とは秘かに心が通い合っている」のを自認する英文学研究者だが、「病膏肓に」入り、とうとうこの名作を「自分なりに語りなおしてみたい」思いが募って、「この作家の絶妙な言葉の世界に浸り、それらの言葉のエッセンスをひとつづつ掬い上げながら」まとめたという。選択し訳もすれば、解説もする、渾身の一冊である。

その語りの調子がユニークだ。「なんの前触れもなく、唐突に講談調もどきが紛れ込」むのだ。圧巻は「お急ぎのかたのために」用意された「12分で駆け抜ける『高慢と偏見』」という冒頭のあらすじ編だ。続く第一部は「『婚活』マニュアルとして読む」、第二部が「『生きる』マニュアルとして読む」という構成。ベネット家の娘たちの「婚活」の様子を「求む、独身男性、ただしお金持ちのみ」、「舞踏会へいざ出陣!でも、美人じゃないと言われたら?」と、現代の言葉で語り直すおばさま。

第二部の人生マニュアルの部分では、なぜか「負けて勝つ」(近松門左衛門)、「中庸は最善なり」(アリストテレス)、「人生は感じるものには悲劇だが、考える者には喜劇である」(ウォルポール)など、作品とは直接関係のない格言が入る。『高慢と偏見』を語っているのか、人生を語っているのか、わからない。最後は「終わりよければすべてよし(All's well that ends well.)」で締めくくられるのだが、あれ、thatは省略できるのでしたっけ?

ここで装幀と挿絵について一言。本文二百六〇頁、小ぶりな本であるのが好ましい。大きな活字で読み安く、数頁に一か所、素朴でセンスの良い版画のカットが入る。これが正確には版画ではなく印刻で、約二インチ四方の枠の中に収まっている。図柄は登場人物の顔や場面、室内風景など。上部には原作から抜き出した英文が、下には和訳が添えられている。この印刻の頁が寛いだ雰囲気を醸し出す。この本は鹿島おばさまの語りと、市原氏の印刻の絶妙なコラボで成り立っているのだ。

全体に作品の勘所を手際よく押さえ、後半では時代背景や状況説明、伝記や批評史まで、さらりと流す。そのお手並み、見事である。『高慢と偏見』を一人で読んだが、この読み方で良かったのかと、不安な人に薦めたい。
この記事の中でご紹介した本
オースティンの「高慢と偏見」を読んでみる 「婚活」マニュアルから「生きる」マニュアルへ /大阪教育図書
オースティンの「高慢と偏見」を読んでみる 「婚活」マニュアルから「生きる」マニュアルへ
著 者:鹿島 樹音
イラストレーター:市原 順子
出版社:大阪教育図書
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