第16回小林秀雄賞・新潮 ドキュメント賞授賞式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年10月20日 / 新聞掲載日:2017年10月20日(第3211号)

第16回小林秀雄賞・新潮 ドキュメント賞授賞式開催

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ブレイディみかこ氏と國分功一郎氏
10月5日、東京都内で第16回小林秀雄賞と新潮ドキュメント賞の授賞式が開催された。受賞作は前者が國分功一郎氏の『中動態の世界 意志と責任の考古学』(医学書院)、後者がブレイディみかこ氏の『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)。

それぞれの賞の贈呈ののちの受賞者の挨拶で、國分氏は「先ほど選考委員の加藤典洋さんから、この仕事は批評であるといったお言葉をいただいたが、僕自身はずっと哲学をやっているつもりで仕事をしてきた。この本は依存症の問題も扱っているし、文法の問題も扱っている。そしてもちろん現代社会の問題も扱っている。ある意味では哲学にとって異質なテーマをいままで論じてきたが、そういうものを論じている時も、いつも自分は哲学をやっているんだという強い気持ちがあった。そうすると、何でこのことを論じるのに哲学なんだという疑問が出てくると思うのだが、その点についてよく思い出すのは、敬愛している哲学者のジャック・デリダの言葉だ。僕は2000年から2005年までフランスに留学していて、2004年までの4年間デリダの授業を受けていた。それは本当に重要な経験だったのだが、ある時こんなことがあった。学生の質問タイムで、学生がやや挑発的に、先生は死刑とかを論じているが、なぜ哲学を使う必要があるのか、なぜ哲学から死刑を論じなければいけないのかと質問したのに対して、デリダはどう答えるのかとみていたら"Parce que J'aime la philosophie"、つまり「私は哲学が好きだからだ」と答えた。僕はこんなすごい哲学者がこんな素朴なことを言うのかと思って、あっけにとられると同時にすごく感動したのをはっきりと記憶している。
僕自身も、今デリダとちょっと同じような気持ちになっているなと感じている。20世紀は小説家が小説というジャンルを否定するように、自分がやっているジャンルのことに否定的になるというようなことがしばしばみられたと思うが、それは自己否定に自己否定を重ねるというモダニズム的な考えの影響だと思う。でも僕自身は哲学をやっていて、やはり自分は哲学が好きなんだという気持ちを強く感じるし、それを言ってもいい、もっと言っていきたいという素直な気持ちを感じている。この本を書いている時も、本当に不安があったのだが、僕は哲学をやっていて、そしてこの哲学は必要なのだという気持ちで書いた。僕自身は一匹狼的に仕事をしてきたという気持ちもあって、あまりいろんなところに属さずにやって来たのだが、今は自分が好きで大切にしたいと思っている哲学のこの営みを、あとから来る人たちにきちんと伝えていくための仕事をしていきたいと思うようになり、今後のためにこの哲学を大切にするにはどうしたら良いのかと考えている。一匹狼と言ったが実際には本当にいろんな方々に助けられてこれまで仕事をしてきた。この感謝の気持ちを忘れず、そして今日の受賞の喜びを糧にして、デリダが言った "Parce que J'aime la philosophie"、「だって自分は哲学が好きなんだ」という気持ちを大切にしてこれからも仕事をしていきたい。」と語った。
ブレイディ氏は「今回何を喋ろうと思いながら、これは言わなければいけないなと思っていたのは、みすず書房の担当の市原さんがいてこそ、この本も出たし、私も今ここにあると思っているということだ。。私はヤフーニュースという非常に多くの方々が読んでいらっしゃるネットニュースにも記事を書いているのだが、それを書き始めてから、ちらほらと編集者の方たちから連絡をいただくようになった。でも市原さんはその前から私の個人的な誰も読んでいないようなブログに書いていたものを読んでくれていた。それが今回の本の第二部に入っているのだが、あの部分は誰かに読ませようとか出版しようとかそういう欲があって書いていたわけではなくて、私は自分自身のために書いていたものだった。「底辺託児所」とは非常にけしからん呼び方だとは思うが、そういう皮肉も込めて呼んでしまっていたのは、やはりその場所にいることで私は辛かったからで、家に帰って気持ちが落ち込んでも、明日も仕事に行かなければいけないという時に、あんなところでもいいこともあるよねということを書いていたのだが、市原さんからああいうものを書いてくれないかと言われて「月刊みすず」での連載が始まった。大学教授や有名なジャーナリストといった方々の略歴が並ぶ中で、私だけ「保育士」とあるものだから、こんなところに居てもいいのかなと思いながらずっと市原さんに支えられて書き続けてきた。立場もわきまえずのこのこ出ていく私も私だが、のこのこ出しちゃう市原さんも市原さんで、やはりギャンブラーなのだろう(笑)。出版業界はいろいろ大変で、ギャンブルをなさる方が少なくなっているということも聞いているが、私みたいな人間がこのような賞を頂けたということは、ギャンブルをすれば花開くこともあるということだ。ギャンブルをされる方がいないと、地べたからの声は上がらないし誰にも聞いてもらえない。だからこの賞は私が出会った子どもたちや、お母さんたちやお父さんたちにも捧げたいが、出版業界のすべてのギャンブラーの方にも捧げたい」と受賞の喜びを語った。
この記事の中でご紹介した本
中動態の世界 意志と責任の考古学/医学書院
中動態の世界 意志と責任の考古学
著 者:國分 功一郎
出版社:医学書院
以下のオンライン書店でご購入できます
子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から/みすず書房
子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から
著 者:ブレイディみかこ
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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