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文芸同人誌評
更新日:2017年11月7日 / 新聞掲載日:2017年11月3日(第3213号)

ユーモラス、高い文学性 阿曽十喜「詩撰集 五編 中間被災地記録」 日常をよく観察している佳品 犬童架津代「運動会」

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総選挙の前、二回にわたってNHKテレビで「ブラタモリ 黒部へなぜ秘境に巨大ダム? 驚きの発電システム タモリ絶品地下水試飲」(二)を見た。黒部に巨大ダムを造ったのは、昭和三〇年代、高度成長期に拡大する電力の需要に応えるためだった、と知り感動した。当時の日本の底力を見せつけられた番組だった。

国内でエネルギーが十分賄えないと、鉱工業をはじめ、近代産業は発展しない。エネルギーをどうやって十分確保するかが常に重大問題なのだ。秘境黒部に日本の技術の粋をこらして、奇跡的な巨大ダムを作り、電力を確保して、日本産業の発展に尽くした。

戦後の驚異的な高度成長を背景として戦後文学が花開いたのだ。

女流作家の佐藤愛子は「語る 人生の贈りもの」(朝日新聞)のなかで次のように述べている。
「私は高等学校の学歴しかありませんから、同人雑誌で批評し合うことが文学の勉強でした。ボロクソに言われて返される日々。仕方なく同人雑誌に発表すると、良くも悪くもそれなりに反応があります。ドングリの背比べ。批評は大抵悪口です。でもそれが励みになりました。

仲間の川上宗薫が師事していた北原武夫さんに、やがて私も師事することになり、そこから本格的に『文学』というものを学びました」「北原さんからよく言われたことは『あなたには文体がない』ということでした」

そこで、方法論を学び井伏鱒二を手本に文体をつくることに十年を費やしたという。普通、文章には留意しても、文体をつくるまではなかなか考えないのではないか。考えてみる価値のある指摘である。文体というのは、言葉を変えれば作者の個性ということになるかも知れない。

今月は阿曽十喜の「詩撰集五編中間被災地記録」が秀逸。そのなかの一編。

狐の嫁入り 被災地異聞

私が小さかった昔むかし の夕暮

今日は狐日和だ 夕暮れ には早く家に帰れ

どこへ行くのか狐の花嫁 行列お出まし日和

「桑の木にからまるカン コの屁」と言ってな

狐っちゃ窮地で命を守る 最後の一発があったかん な

狐には特にいたずらすん なの父の声

狐が登場してどこかユーモラスな作品。高い文学性を感じる。

次に犬童架津代「運動会」(「海峡派」140号)が佳品である。こんな風に始まる。「元子の娘、ゆりには四人の子供がいる。元子も近頃ではあまり行き来しないが、それでもいざ何かある時はやはり来てほしいらしくて電話が鳴る。元子のほうも(近頃では音沙汰ないねえ)と思っていると、何とタイミングよくメールが届く」

日常をよく観察しているとすぐ近くに題材がある。

「ずいひつ遍路宿」215号。充実の七十二ページ。判型が大判になっている。

高島緑「柿の木」は植えて十年になるのになかなか実がならないと記す。ページ数も増えているようだ。編集後記から読む。活発な意見が飛びかっていて、楽しい読み物になっている。

その他、桑原文明「吉村昭試論39 法意識」(「吉村昭研究」第三十九号)、東喜啓「たんぽぽ」(「民主文学」10月号)、榎並椈水「四季 有情」(「安芸文学」八十六号)、山田美枝子「許されざる者」(「まくた」二九二号)、堀康治「アンテナ暴走」(「雑木林」二十二号)、「北村くにこ特集」(「人間像」一八七号)に注目した。(しらかわ・まさよし=文芸評論家)
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