対談=野矢茂樹×難波博孝 言葉が変われば日本が変わる 『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)を基軸に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年11月9日 / 新聞掲載日:2017年11月3日(第3213号)

対談=野矢茂樹×難波博孝
言葉が変われば日本が変わる
『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)を基軸に

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第4回
大人のための国語ゼミ

野矢 
 この本の読者ターゲットは誰ですか、と聞かれたことがあって、そのときポロっと口に出たのは、安倍晋三(笑)。政治家が言葉をないがしろにしたら政治はぐずぐずになってしまう。だから、政治家たちにもぜひ読んでほしい。
難波 
 英訳してトランプにも読んでほしい(笑)。
野矢 
 もちろん、本当に念頭においている読者は、もう国語の授業から離れてしまったごくふつうの人たちです。とくに二〇代、三〇代が読んでくれればいいですよね。二〇代、三〇代なら、まだ十分変わっていけるでしょうから。
難波 
 分断を越えていくための、一つの武器として、言葉を手に入れて欲しいですね。
野矢 
 最初に言ったように、今の時代は職場や人間関係におけるストレスが大きくなっていると思うんですよ。「あ・うん」の呼吸では済まなくて、きちんと言葉にしなくちゃいけない。的確に分かりやすく説明したり、説明を聞いて正確に理解して、いい質問をしたり、ときには反論したり。だけど反論したいけれど、どう反論すればいいのか分からなかったり。そういうときに、国語力が少し上がることで、少しでもストレスが減る実感が持てれば、そこから正のスパイラルに入って行ける。始まりは一つ語彙を増やす、というところからでもいいんです。あるいは、この言葉では相手に伝わらないな、と気付くだけでもいい。とにかく、何か一歩進んでみたら、ストレスが減って、それが成功報酬になって、学習が進むというような、いい方向に進んでくれるといいなと。その最初に背中を押す役割を、この本が担えればうれしいですね。
難波 
 分かり合うために、とか、分断を越えるためにとか、ノウハウ本はたくさん出ていますよね。でも、ほとんどの本は、精神論ばかり。『国語ゼミ』には、まず言葉から変えてみよう、言葉を学んでみよう、相手のことを考えて文章を組み立ててみよう、と変わるための具体例がある。そこがポイントです。
野矢 
 ビジネス書に、似たような趣旨の本がたくさんありますよね。プレゼンテーションの仕方、説得術、質問の仕方……。おそらくそれらは対症療法的な本が多い。対症療法では、無数の症状に対し、無数の療法が必要になって、結果無数の本が次々出ることになる。ビジネス書的な即効性を求めている人にとっては、『国語ゼミ』は、不満でしょう。でも腰を据えてやってみようという人には、根本から変わるための、力になれる一冊だろうと思います。
難波 
 野矢さんの『論理トレーニング』と『国語ゼミ』とは根底は同じだけど、中学校の教科書編集の体験が『国語ゼミ』にものすごく生きていますよね。
野矢 
 『論理トレーニング』があったから、中学校の教科書の仕事がきたんでしょうね。で、引き受けるときには、『論理トレーニング』を平易にすればいいんだろう、ぐらいに思っていたんです。ところがそんなに甘いものではなかった。ほとんどゼロから教えていかなくちゃいけない。論理的になるための最初の一歩目を考えました。つまり、相手のことを考えて話そうとか、思いついたまま話したら伝わらないとか、ごくごく基本的な姿勢に立ち返る、ということ。そして実はこれが最初の一歩であると同時に到達点でもある、非常に重要なことなんだと気付いたんです。
難波 
 それが今回、大人のためのテキストに生きたのが、よかったと思います。ただやはり免疫の強い大人たちは、これを読んでも、自分は大丈夫、自分はちゃんと言葉を使えている、と思い込む気がする。
野矢 
 だから一ヶ月かけて問題解きながらじっくり考えて、と言っているのに。
難波 
 野矢さん、『大人のための国語ゼミ』のワークブックを作りましょうよ。このかたちだと、ただ読んでしまうだけになるんです。ワークブックならば、問題を解かなければならないから、立ち止って考えざるを得ない。
野矢 
 高校の国語の先生になった教え子がいて、この本を授業で使ってもいいですか、と言うから、いいよ、でも君が問題を作ったら送ってね、と言ってあります。ワークブックはいい企画だと思うけれど、私だけでない、若い人たちが乗っかって、チームを組んで発展させてくれるなら、うれしいんですけれどね。
難波 
 問題を作るのは大変ですよね。
野矢 
 手間暇がかかります。いかに面白くするか、考えさせるか。自分で言うのもなんだけど、例えばささやかな例ですが、逆説の接続表現の例文で、「告白したが、あやまられた」というのが、けっこう気に入っていて(笑)。こんな例文でも、一つ考えるのに、一時間近くかかることもある。「断られた」ではなくて、「あやまられた」というのがいいでしょ? 「タンタンメンを注文したのに、ワンタンメンが出てきた」とかね。あるいはモーツァルトのかつらの話とか。あれはまちがえてくやしがっている人が何人もいました。
難波 
 いい問題を作るのは、力がいりますね。僕も『論理力ワークノート』は一人で作っていませんし、しかも準備から一年以上かかっていますから。
野矢 
 あれは画期的ですよ。お互いこれが嚆矢になって、続いてくれる人が出るとうれしいですよね。
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この記事の中でご紹介した本
大人のための国語ゼミ/山川出版社
大人のための国語ゼミ
著 者:野矢 茂樹
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践/英治出版
なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践
著 者:ロバート・キーガン
出版社:英治出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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