対談=野矢茂樹×難波博孝 言葉が変われば日本が変わる 『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)を基軸に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年11月9日 / 新聞掲載日:2017年11月3日(第3213号)

対談=野矢茂樹×難波博孝
言葉が変われば日本が変わる
『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)を基軸に

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第5回
ナラティブとポリフォニー

野矢 茂樹氏
野矢 
 私は、文学は高校では「国語」から切り離して、「美術」「音楽」「文学」と、芸術の選択科目にしたらいいと考えています。ただ詩歌や随筆は外しても、小説だけは国語から外せない、という気持ちが芽生えてきているんです。小説を教材にすることによって鍛えることのできる力で、芸術的な力ではなく生活や仕事に関わる実際的な力には二つあると思うんですね。

一つは人生や社会における個々のエピソードをたんに羅列するのではなく、それを一つの物語として組立てる力。そしてもう一つは小説の中の、ポリフォニー(多声音楽)的な要素。つまり、主人公一人の目から見た物語だけでなくて、複数の登場人物の、それぞれの視点から語り出されたものを、他人の視点に立って受け取ることができる力。こうした力は社会を生きていくのに、とても大切だと思っています。

先ほど話した、大学入試の新しいモデル問題では、契約書など、かなり実用的なものを資料として読ませる。でもそうした実用的な文章読解力だけでなく、物語を読み取り、組立てる力と、複数の視点をポリフォニー的に捉える力は、国語教育から外してはいけないのではないかと。
難波 
 そうだとしたら、文学を国語から切り離すことは難しいでしょうね。文学の大きな部分を小説が占めていますから。
野矢 
 いや、私は文学の基本的なかたちは詩だと考えているんです。言葉そのものが力を持ち、輝いている。ストーリーなどは、文学にとってそれほど重要ではない。小説であっても詩と同じで、文学の力とは、どういう言葉が、どのように使われているのか、だと。そうした言葉の輝きを受け取る力は、まさに芸術的感性なので、必ずしも全ての人が持てなくても構わない。例えばクラシック音楽を聴く耳を持っている人といない人がいるように、言葉の芸術的な輝きを、受け取れる人も受け取れない人もいてかまわない、と思っているんです。
難波 
 なるほど。小・中学校までは国語として一つだったものを、高校では詩を中心にした言語芸術として、文学が芸術科の専門科目となり、ナラティブな小説のみ国語科目に留まると。それは一つの有効な改革案だと思います。

ただ小説を残すか、文学を国語から切り離すか、という枠組みよりも、小説や物語から何を学ぶか、学べるか、どんな力を身につけるかという視点が大事ですよね。今、野矢さんが言われたように、ポリフォニーの観点、そして様々な物語を読むことで、実人生の見方を育てていくというような、国語が「生きてゆくこと」を視野に入れた教育にならなければいけないと。

そして、ここでまた問題は、現状の文学研究は、作者研究、作品研究に留まっていること。文学が読み手に、どのような力を与えるか、というまなざしは、弱いかもしれません。
野矢 
 文学には大まかに二つの側面があって、一つは言語文化。文化として培われてきた豊かさは、芸術として捉えることができる。一方に、小説や評論を読むことで、自分の生活の中に跳ね返ってくる部分がありますよね。その後者を国語教育の中に残すべきだと思っているんです。
難波 
 芸術性と日常性、言葉の二つの側面ですね。教科として、切り離すか切り離さないかはさておき、その視点は、必要だと思います。野矢さんの仕事に対して、日本語の芸術的側面を切り捨てるのか、などと誤解する人が出てくると思いますが、それは違う。
野矢 
 論理というと、文学者には白眼視されがちですよね。
難波 
 日本は特に、論理と文学、論説と小説は、相対するものだという意識が強いですが、僕は『国語ゼミ』は、小説の読み方でもあると思っているんですよ。「相手のことを考える」のは、物語の主人公なり、作者なりの思いを想像することに通じますから。
野矢 
 この本に、物語を読む力へと接続していくような方向性が示されていたならばうれしいですね。この本の先に、小説を取り上げながら、展開していくようなパートがあったらいいなと思います。
難波 
 確かに。でも仲島さんが描いたイラストは、本一冊を通した物語になっていますよね。挿絵ではないんです。一人一人、キャラクターを持って、本の中で生きている。無意識にナラティブを求めたのではないですか。
野矢 
 なるほど。本の背後に四人の生活があって、それがひょこひょこっと顔を出しますね。

私は仲島さんが作った四人の性格を考えてセリフを付けているのですが、ときには、彼女のキャラクター設定よりも、一歩踏み込んで、「リコって鉄オタだったんですね」とか、「トビオはこんなに真面目なことを言うんですか」と仲島さんに言われたこともありました(笑)。本を書いている間、私のそばに、四人がずっと一緒にいてくれた気がします。
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この記事の中でご紹介した本
大人のための国語ゼミ/山川出版社
大人のための国語ゼミ
著 者:野矢 茂樹
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践/英治出版
なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践
著 者:ロバート・キーガン
出版社:英治出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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