対談=野矢茂樹×難波博孝 言葉が変われば日本が変わる 『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)を基軸に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年11月9日 / 新聞掲載日:2017年11月3日(第3213号)

対談=野矢茂樹×難波博孝
言葉が変われば日本が変わる
『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)を基軸に

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第6回
虚から実へと開く

難波 
 人文系に対する風当たりの強さの原因の一端は、人文系自体にありますよね。自分たちがしていることの意味を考えてこなかった。「おともだち」で固まってしまっていたところがあると思うんですよ。
野矢 
 日本の大学は、どんどん実学を重視する方へ向かおうとしている。人文系だけでなくて、理系でも基礎科学がおろそかにされる、というような状況があります。そういう方向に、この本は反対するものではなくて、むしろ掉さしているんです。つまり国語をきちんとやることは、社会にとっても実生活にとっても、ものすごく大事で有益なことだと。『国語ゼミ』は実学の本です。

それに対して、虚学を大事にしたいという思いは、また別にあります。人文科学というのは基本的に文化であり虚学です。虚学に対する価値を認めないのは、文化がやせ細るだけであって、よろしくない。人文科学なんてけっきょくのところ無駄なんですよ。でもそこで、無駄なものなんてないんだとか、無駄も役に立つんだとか、そういう反撃は違うと思う。哲学をやっている人は、懸命に哲学が役に立つことをアピールしようとするのですが、そうではなくて、無駄を無駄として受け入れていく豊かさが必要なんです。それがなかったら、国なんて亡びると思います。

私は『国語ゼミ』を出すことによって、虚へ向かう方向を切り捨てようとは、全く思っていません。この本は、もちろん全く有益なもの(笑)。でも自分の専門の哲学は無駄で構わないと思っています。
難波 
 野矢さんは、哲学と『国語ゼミ』とを分けておきたいという気持ちがあると思うんだけど、これは実の本だけど、虚の本でもあると思うんですよ。別の言い方をすれば、実用とは何なのか、という問い直しをしている。

一見スキル本のようで、問題を解いていくと、全く違う新しい世界が広がる。僕が先ほど、人文系の人たちに問題があると言ったのは、虚学の立場から、実とは何なのかを問い直すような研究をするべきだったのに、自分たちは虚学だからいいんだと、開こうとしなかった。本当は、虚から実に対して発言していく必要があるのではないか。その見本の一つが、この本だと思います。
野矢 
 ああ、そうか。虚を実と言い張るのではなくて、虚から実へと開いていくということですね。確かに、哲学をやっていなかったら『国語ゼミ』は生まれなかったでしょう。実際、この本は純然たる実用書とは違いますよね。
難波 
 『大人のための』という言葉にはファンタジーがありますね。ここがまさしく、実と虚をつなぐ、というのかな。「大人のための童話」とか「大人のための塗り絵」とか、本来は子どものための世界のものにこそ、「大人のための」と加えますよね。この本の持っている豊かさ、広がりが、にじみ出ています。

ひとことで言うと、これは愛の本です。
野矢 
 やっぱりその言葉でまとめるんだな(笑)。
難波 
 好きで一緒になった恋人や夫婦でも、多くの人が分かり合えなさを抱えている。分かり合うにはどうしたら、いいか。『大人の国語ゼミ』を読みましょう!

(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
大人のための国語ゼミ/山川出版社
大人のための国語ゼミ
著 者:野矢 茂樹
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践/英治出版
なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践
著 者:ロバート・キーガン
出版社:英治出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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