北朝鮮の核ミサイル  安倍政権の積極的平和 核戦争の世界へ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年11月7日 / 新聞掲載日:2017年11月3日(第3213号)

北朝鮮の核ミサイル 
安倍政権の積極的平和 核戦争の世界へ

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国難突破解散と銘打たれた衆院選は、与党圧勝に終わった。野党の敵失に大いに救われた。得票率と議席占有率の落差も大きい。だがともかくも、自公は改憲発議に必要な議席数を確保した。「謙虚に政策を進めて」(安倍首相)、内閣支持率が回復したら、強行採決も不可能でない。

首相が「国難」に挙げていたのが、産経新聞記事によると「一にも二にも」、北朝鮮の核ミサイル問題だ。論壇誌の多くも特集を組んでいて、各誌の違いが鮮明に出ている。『正論』は「開戦の時」、『世界』は「対話しかない」、『中央公論』は「日本の「核」」。安倍政権が選択するのは戦争か、外交か、核武装か。

古森義久氏は「日本列島を核爆弾で海中に沈める」との北朝鮮側の声明を論拠に、「日本の国家と国民がその存立をも否定されかねない危機が迫っている」としたうえで、「普通の主権国家としての」「日本独自の措置」すなわち「軍事的な能力や措置がなければならない」と主張する(古森義久「戦えない国家 日本でいいのか」『正論』十一月号)。開戦の時だ。もっとも『正論』はどれを読んでも、いつもこういう論調だ。北朝鮮問題の有無に関わりなく。自らの主張の理由づけに北朝鮮を利用する点では、安倍首相と同じだ。複数の論客が、選挙のために北朝鮮の脅威を過剰に煽り立てたと、首相を冷笑する。上述の北朝鮮側の声明も、朝鮮労働党の外郭団体の名で出された格下級のものにすぎない。

安倍首相自身は「100%アメリカとともにある」とのスタンスだ(日米電話会談、九月三日)。追従とも丸投げとも呼べるが、ともかく核問題はアメリカの出方にかかっていることになる。

ティラーソン国務長官とマティス国防長官は、八月に連名で米紙に寄稿し「北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発を即時停止する真摯な態度を取れば、対話の用意がある」との「基本姿勢」を示した(平井久志「持久戦覚悟の粘り強い対話しか道はない」『世界』十一月号)。マクマスター国家安保補佐官も九月末に、北朝鮮は「核兵器を放棄する用意があることを宣言しなければならない」「アメリカは、北朝鮮が核弾頭を装着したミサイルを獲得することも容認しない」と同様の発言をした(李相哲「いつまで「開戦前夜」は続くか」『新潮45』十一月号)。

対する金正恩党委員長は九月半ばに、「米国と実際の力のバランスを取って」いくことが「最終目標」だと語ったが、平井氏はここに「北朝鮮の大きな錯覚」を見る。なぜなら、北朝鮮は「香川県程度の経済力で米国と軍拡競争をしようとしている」からで、その「経済規模や経済水準では無理」だ。平井氏は、北朝鮮も「結局は」「対話に向かわざるを得なくなる」と論じる。もちろん一筋縄ではいかないから、「非核化へ向けた息の長い交渉」になると。

とはいえ、中長期的にはその通りだとしても、当座の問題としてはどうか。李容浩外相は九月下旬の国連演説で、「核武力完成の完結段階」にあると語った(和田春樹「米朝戦争の可能性があるなら、日本は何をなすべきか」『世界』)。プーチン露大統領も九月初めに、「北朝鮮は雑草を食べてでも核開発を止めない」と語った。和田氏は「オバマの無条件キューバ国交樹立にならって」、「日本が、北朝鮮がのぞんでいる日朝国交樹立に踏み切ることがよい」と提言する。「経済協力問題、拉致問題、核ミサイル問題について交渉を開始する」ことにより、「日本は米朝の間に体をいれて、戦争を防ぐことができる」。首相が“100%アメリカとともにある”かぎり、日本の独自外交を意味する和田氏の提言の実現可能性は0%だろう。だが、それを学者の夢想と一蹴するのは短絡的に思える(後述)。

小此木政夫氏は「米本土に到達可能な核ミサイルの保有を既成事実化することが〔北朝鮮の〕目標」としつつ、「強硬政策を続けた後に、突然、柔軟政策に転じるのが、金日成時代の北朝鮮外交であった」と指摘する(小此木政夫「危険な「瀬戸際政策」は終わるか」『世界』)。問題は「金正恩委員長にそのような「ゲームチェンジ」ができるかどうかだ」と。平井氏の言う経済力を思えば、チェンジの可能性はあろう。だがプーチン発言を思えば、チェンジは“核武力完成”後になろう。前と後ではチェンジの内実が異なる。

木宮正史氏は「北朝鮮の核武装がコンスタントなものになれば、核保有の目的そのものが変わる可能性がある」と警告する(木宮正史「問題の背後にあるのはNPT体制の矛盾」『世界』)。当初は「アメリカを対象にした防御的なものであったとしても」、いずれ「韓国、場合によっては日本に」「外交的な圧力を加えようという誘惑に駆られるかもしれない」。韓国ではすでに「核武装論」が「現実味を帯びてきている」。「日本では反核感情が強いので核武装という議論は本格的には出てこないと思われるが」、「議論が起こらない保証はない」。いや、日本でもすでに議論は出ている。

石破茂氏は非核三原則の「持ち込ませず」について、「もう少し可能性を広げて検討し」「あらゆる角度から柔軟に議論すべき」と説く(石破茂「「持ち込み」から共同保有まであらゆる議論が必要だ」『中央公論』十一月号)。三原則は「国是」だが、「憲法上、日本が核を持つことは可能で、これは国会で何度も答弁されてきた」。安倍内閣は昨年四月に同趣旨の閣議決定もしている。特定秘密保護法も強行採決済みだから、たとえ憲法上不可能でも核保有はできる。過去には沖縄への核持ち込みの“密約”もあった。

佐藤優氏はさらに踏み込み、「非核一・五原則」を主張する(佐藤優、手嶋龍一「日本は「非核一・五原則」を選べるか」『中央公論』)。三原則の「持たず」を半分にし「アメリカの核を、日米でシェアする」。「イメージとしては、核を搭載したアメリカの原子力潜水艦に自衛官が乗り込むとともに、内閣総理大臣が核ボタンを持つ」。米大統領が同時に押さないと発射されないものでは「ありません」。本格的かどうかはさておき、非常に具体的な議論だ。

佐藤氏の主張の背景には、米政権の「落としどころ」が「北朝鮮の核容認とICBMの凍結になるはず」との予測がある(佐藤優「トランプの「北の核容認」に備えよ」『文藝春秋』十一月号)。核放棄の要求は「北朝鮮の「国体」を否定することに等しく」、核弾頭を搭載したICBMの実戦配備は米政権にとって「真の「レッドライン」」だからだ。この場合「日本全土が、北朝鮮の核ミサイルの射程圏内に収まる」から、日本も核を持てと。だがそもそも氏の予測は当たるのか。

ブッシュ政権とオバマ政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は、七月に米紙に寄稿し「北朝鮮の核武装と体制を容認すべきだ」と語った(川上高司「アメリカからやってきた「日本核保有論」」『新潮45』)。オバマ政権で大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏も、八月に米紙に寄稿し「必要であればアメリカは北朝鮮の核も容認せねばならない」と語った。佐藤氏はこれらの発言を踏まえているのだろう。川上氏も「日本は米国の核抑止を確実に機能させねばならない」として核共有を説く。だが古森氏によると、「北の核容認論」は米国では「ごく少数の意見」だ。

そればかりか、同氏は「北朝鮮の核兵器が他の無法国家やテロ組織に拡散する危険性」や「「核拡散防止条約(NPT)」の崩壊の危険性」等を挙げ、北の核容認論を「非常に危険」と批判する。これは米朝や極東だけでなく、世界全体に関わる問題だ。だからマクマスター国家安保補佐官も「ライス氏の主張はまちがっている」ときっぱり斥ける。佐藤氏らにこの視点はない。具体的だが本格的でない軍拡論のようだ。

九月に三十二回目の訪朝を果たしたアントニオ猪木氏は、トランプ政権後の米朝対立を「プロレスどころか子どもの喧嘩」と呼ぶ(アントニオ猪木「私と北朝鮮と生前葬」『新潮45』)。「本来、その間に入って仲裁するのが日本の役目だ」が、「それだけの器量がいまの日本にはありません」。「決して交渉のドアを閉じてはいけない」。この猪木氏の「政治理念」に照らせば、「圧力に次ぐ圧力」の安倍政権はできることをしていない。

今回、各誌を一読して驚いたのは、核兵器禁止条約や、同条約制定を主導しノーベル平和賞も受賞したICAN等の国際NGOへの言及がないことだ。論客の思考回路が主権国家の枠内に囚われていて、時代に遅れをとっていないか。主権国家のみを交渉当事者とするかぎり、国際紛争はこじれやすい。そのため国際NGOの存在意義は増している。これらの組織を介して、和田氏の提言かそれに近いことも、実現への展望が開けるかもしれない。安倍政権はこれもできるのにしていない。日本主導の核兵器廃絶決議は、核兵器禁止条約に触れず、「核兵器のあらゆる使用」から「あらゆる」の一語を、また「核兵器なき平和で安全な世界を目指して」の一節を削除した。安倍政権は閣議決定の通り、核戦争の世界を目指す。積極的平和主義=戦争ハ平和ナリ。サーロー節子氏は決議を「被爆者への裏切り」と非難する。「戦争は体験しない者にこそ快し」(エラスムス)
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