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八重山暮らし
更新日:2017年11月21日 / 新聞掲載日:2017年11月17日(第3215号)

八重山暮らし⑱

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西表島のカマイ猟。リュウキュウイノシシを仕留める。
(撮影=大森一也)
カマイの季節


もはや道は無い。猟師は野性とひとつとなり、密林の斜面を駈け上る。追いつめられたイノシシ。筋肉そのものの体躯が激しくぶつかってくる。迫る牙をあわやかわし、渾身の一撃を与えて獲物を仕留める。

西表島のカマイ(イノシシ)猟に冬の到来を知る。その肉はすこぶる美味だ。さばいた肉塊を焙る香ばしい匂い。小鼻がうごめき、唾が涌き出る。一片をゆっくり噛む。旨味が口中に広がっていく。野山を奔放に生き切った獣のふくよかな味わい。箸が止まらない。食したものが、そのまま血肉となるようだ。

山の神からの頂き物といわれるカマイ。それを捕らえた時、猟師の分厚い手のひらが合わさる。まぶたが閉じ、口の端から言葉がこぼれる。
「バーミー トーリヨー」

それは島の言葉。
「自分が使う分だけを分けてください」という意味がある。サンゴ礁の海で魚を捕る時にも、島人は同じ言葉をつぶやくのだという。

節度のある狩猟。それは山と海と交わる人びとの暮らしに摺り込まれてきた。島の恵みをいただく流儀は限りなく野生に近しい。

鉈を腰に下げた猟師は、今日も身ひとつで山を巡る。熱い風となって。彼らは水すら持たない。生きるためのすべてが、この山に用意されていることをカマイのように熟知している。
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