連 載 映画/映画作家/映画批評 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く(32)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2017年11月21日 / 新聞掲載日:2017年11月17日(第3215号)

連 載 映画/映画作家/映画批評 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く(32)

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蓮實重彦氏(左)とドゥーシェ(日本にて)
JD 
 ここまでの話をまとめると、多くの映画作家にとって、フランス料理を見せるということは、ただ単純に料理の文化を見せることではないということです。いかにして食事が社会的であるかということを、同時に見せることでもある。作品の中に表彰される「食」とは、作家の私的な問題にとどまるものではありません。
HK 
 食事は食事以上のことも語る、ということですね。
JD 
 その通り。フランス映画における「食」を見ると、そこには食事以上のものが表現されています。「食」自体が、社会における「食」の重要さと、その重要さに対する批評を同時に表わしているのです。

食事という問題だけ見ても、このようにいくつもの側面が共存しています。似たような観点ですが、「いかにして社会は、規則を機能させるために食事を必要としているのか」という問いを立てることもできます。『ゲームの規則』がどうして傑出した作品であるのかは、この点からも考察できます。食事が出てくる必然性があるのです。
HK 
 確かにそうですね。ここまで「食と映画」について話を進めて来ましたが、そのおおよそはフランス映画と食事の関係でした。フランス映画において「食」が頻繁に表現されていたように、日本においても「食」の表現が多くなされていたのではないでしょうか。とりわけ50年代から70年代にかけては、多くの作品にとって、作品の一部として「食」が不可欠だったと思います。
JD 
 小津安二郎の話からはじめましょう。小津映画における食事とは、彼独特のあの低い位置に置かれたカメラや真っ正面から人物を捉える画面と同様のものです。それを見るだけで、小津の映画だとわかるような署名がなされています。「食」の存在しない小津は考えられません。サイレント期から晩年まで作品の一部として重要な要素を担っています。
HK 
 溝口健二は、あまり食事を取り上げることはありませんでしたね。
JD 
 溝口は小津と比較すると、ほとんど食事を見せていないも同然ですが、少なからず食事の光景がありました。しかし、溝口の映画は食事の映画ではありません。
HK 
 成瀬巳喜男の作品でも、少なからず食事の風景があったのではないでしょうか。『めし』というタイトルの作品もあったくらいですから。
JD 
 成瀬映画にも確かに食事の光景はありました。ただ、おそらく私は、日本映画の「食」を十分に語るほどには、日本映画を包括的には見ていないかもしれません。
HK 
 川島雄三や清水宏はフランスではほぼ紹介されていないも同然です。
JD 
 それでも、小津や成瀬以外の作家にも、確かに食事の風景が存在していたと思います。例えば、大島渚がいました。彼はあまり食事の映画を撮ることはありませんでしたが、印象的な作品が何本かありました。『儀式』において、大島は彼なりの観点から日本の食事を見せました。この作品を見ると、日本の食事とは格式張ったものであり、社会的行為だということが、よくわかります。日本の社会においては、儀礼のようなものが社会の中心を占めています。そして、その儀礼を中心として社会が成り立っている。同じような観点から、黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』の冒頭の結婚式の光景も、とても興味深いものです。結婚式という儀式を、根本的に破壊してしまうような演出がなされていました。そうした日本的な儀礼による食事がある一方で、フランスにおける食事とは、儀式的な行為ではありません。フランスの食事とは、あくまでも皿の上にあるものです。食事は食事なのです(笑)。
HK 
 全くもって異なる方法だということですね。
JD 
 その通り。異なるしきたりです。日本映画において食事の風景が頻繁に出てくるのは、当然の成り行きだと思います。中国においては、フランスや日本ほど多くの映画作品が作られてきませんでした。しかし、中国映画においても、日本と同様のことが言えるはずだと思います。いずれにせよ、中国料理とは非常に優れたものです。
HK 
 侯孝賢や王家衛の世代が、食事を不可欠とした作品を既に作っていたのではないでしょうか。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
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