マルクスとエコロジー 資本主義批判としての物質代謝論 書評|岩佐 茂・佐々木 隆治(堀之内出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年8月26日 / 新聞掲載日:2016年8月26日(第3154号)

マルクスとエコロジー 資本主義批判としての物質代謝論 書評
本来のマルクスを提起する エコロジー(物質代謝論)に資本主義批判を見る論集 

マルクスとエコロジー 資本主義批判としての物質代謝論
出版社:堀之内出版
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本書はマルクスのエコロジー(物質代謝論)に資本主義批判を見る論集である。第一部にマルクス固有のエコロジー論に焦点化した論文三本、第二部に経済学批判のプロジェクトとエコロジーの連関を考察した論文三本、第三部にマルクスのノート群からエコロジー論を検討する論文二本、第四部に今日の環境問題・科学技術論へのマルクス的エコロジーによる応接を図る論文二本が収録されている。

十論文を掲載順に概略する。岩佐論文は「人間と自然の物質代謝」から資本主義下の工業化と農業化による「物質代謝の攪乱」を概観し、マルクスは「自然の支配・制御」ではなく農工業の「高次の総合・結合」が「攪乱」を抑制しうると考えていたと説く。フォスター論文はマルクス物質代謝論への批判に応えるかたちで今日の地球に起きている「大亀裂」を食い止める「マルクスのエコロジー的唯物論」を擁護する。自然と社会を弁証法的連関において把握したマルクスの視角は今日も遜色なしとする。バーケット論文は、共産主義を持続可能でエコロジカルな人間の発展のヴィジョンと捉え、科学技術楽観主義者というマルクスのイメージを払拭し、共同所有とアソシエーションと非市場的生産計画に基づく社会構想としての共産主義実現に向けた階級闘争を再喚起する。佐々木論文は「物質代謝」(同論文内では「素材代謝」表記)を経済学批判に不可欠な概念と見做す視点から経済的形態規定を担う素材の代謝を論じる。「素材代謝」を資本が攪乱する仕組みを分析し、アソシエーションには素材代謝の人間自身による制御も含まれるとする。明石論文は、資本の「弾力性」が限界を超えるとき生じる攪乱をエコロジー危機と規定して、その諸相を解明する。資本蓄積を基礎づける弾力性が同時に物質代謝撹乱のリスクを高め、利潤率の傾向的低下にも作用して、生産手段と労働力を浪費させるという。羽島論文は「無償の自然力」を物質代謝攪乱把握の手がかりとする試みである。自然は物象化から生じる価値として特殊歴史的に無償とされ、この無償性は剰余労働においても成り立つ。

資本主義が労働力を実質的に包摂するとき、さらに深刻な環境破壊が生じる。資本は自然力に依拠する一方で、物質代謝の再生産を顧慮しないからである。斎藤論文はマルクスが経済学批判の完成に向けて諸学問分野から抜粋したノートを、物質代謝論の展開に向けた準備と捉え、特にフラースとリービッヒに注目して、資本主義的生産様式が素材的世界に「特殊な歴史的規定性」においてもたらす亀裂を浮き彫りにする。フォルグラーフ論文は遺稿に見られる物質代謝攪乱へのマルクスの取り組みを追う。リービッヒ参照の跡を辿り、私経営における持続可能性の不安定などを指摘したノートを紹介して、農地疲弊に抗う要因の探求過程を跡づける。隅田論文は『資本論』の技術論から原子力技術を捉え返し、科学技術自体を拒絶する文明論的視座と、資本主義自体に矛盾を看取する伝統的マルクス主義の双方を超えて、「科学と賃労働―資本関係の内在的連関」から原子力技術を批判する視点を提起して、原子力技術脱却の可能性を展望する。權論文は今世紀の食糧危機問題をマルクスの資本主義分析と過少生産論との比較を通して考察する。商品を過剰生産する資本の自然環境への作用が特定の自然(資源)の希少性や過少生産を左右すると考える過少生産論では、自然を領有する全生産過程に人間労働が投入される点を看過しているなどの点で、今日の危機を解けない。だが過少生産論による気候変動と生態系危機の資本蓄積への複雑な作用の指摘は重要であり、そのさらなる解明がマルクス経済学の課題であると結ばれる。

編者のお一人の佐々木氏は「伝統的マルクス主義」およびマルクスの「新しい読み方」を提示した「現代思想」に対して否定的である。それら雑音を排して本来のマルクスを提起するという方針で本書は編まれており、資本主義による攪乱からの本来の物質代謝の回復という疎外論と相即する。
この記事の中でご紹介した本
マルクスとエコロジー   資本主義批判としての物質代謝論/堀之内出版
マルクスとエコロジー 資本主義批判としての物質代謝論
著 者:岩佐 茂・佐々木 隆治
出版社:堀之内出版
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