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2017年11月28日

八重山暮らし⑲

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(撮影=大森一也)
糸芭蕉  

「ブナルヌ サックイ クイルナ」

竹富島に暮らす染織の師は糸を績みながら語る。父や祖父から厳しく戒められてきた言葉だ、と。
(姉妹の 糸入れ箱を 跨いではいけない)

芭蕉の葉が風に揺れている。緩やかに空中を舞う。赤ん坊もくるめるような大きな葉。つややかな緑だ。
生長した糸芭蕉の茎は太く、木質のごとく堅い。手折るにはノコギリやカマが必要だ。切り倒した茎の薄茶の皮をパキリ、パキリと剥いでいく。すると純白の芯が現れる。ナイフで切れ目を入れ、細長く引き出す。天女の羽衣のように白く涼やかな質感が美しい。

引いた芭蕉を束ね灰汁で煮る。赤ん坊が湯浴みできそうな大鍋だ。炊いた芭蕉から余分なカスをこそぐ。すると光沢のある糸が現れる。細く裂いた繊維の一本、一本を濡らしながらつなぎ、糸に績む。数ヵ月をかけて一反分の着尺に必要な糸がようやくできる。
「昔は芭蕉で蚊帳も作った。家族の着物を織るため、あたりまえに暮らしの中で仕事をまわしていたさぁ」

家事、子育て、畑仕事の合間も。就寝間際まで片時も手を休めることはなかった。しかし、手仕事はおんなに課せられた苦役ではない。父や夫たち、おとこらの畏敬の言葉によって貴い手技へと昇華した。おんなたちの誉れが宿っていた。
2017年11月24日 新聞掲載(第3216号)
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