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八重山暮らし
2017年12月12日

八重山暮らし(21)

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黄色の神衣装を纏う神司は、儀式のために草冠を被る。
(撮影=大森一也)
与那国島のマチリ


その月は、四つ足の獣肉を食してはならない。
「それでもマチリに同行したいのなら、塩水で全身を清めたらいいんです…」

寡黙な旅人のかしこまった面差しがやわらいだ。

日本最西端の島で25日間にわたり執り行われる祭祀「マチリ」。「カンヌティ(神の月)」とも呼ばれ、この期間、牛や豚の屠畜も行われないという。

師走の月を控えた与那国島に北風が吹きすさぶ。晴れた日は、西の高台から台湾が見えるかもしれぬ…。八重山の果ての島でこそ、往時の暮らしぶりとつながることが叶う。そんな摩訶不思議にいつも包まれる。

マチリの月は終盤を迎えていた。航海安全の祈願が行われた祭場では、奉納芸能が始まろうとしている。舞台袖に踊りの出番を待つおんなたちが座っていた。

つと立ち上がったおんなの藍の経縞の着物には、白い絣が配されている。その腰元の細帯、黒みがかった藍の地にも真っ白な絣が浮かぶ。紺碧の海原にはじける波飛沫がふとよぎる。

ひとりが手拭いをはらりと広げた。純白の地に赤や黄の紋柄がくっきりと映えている。南国の艶やかな蝶のような布を頭に着ける。

綿々と手渡されてきた大切な布が、そこにある。触れられるほどの、すぐそこに…。マチリの日の身繕いから、片時も目を離すことができなかった。
2017年12月8日 新聞掲載(第3218号)
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