対談=宇野維正×速水健朗 大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~ 『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月8日 / 新聞掲載日:2017年12月8日(第3218号)

対談=宇野維正×速水健朗
大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~
『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に

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第2回
小沢健二の痕跡を追って

速水 
 小沢健二がフェイバリット・ミュージシャンだということですけど、世代的な典型ファンとは違うのかなって思いました。僕なんかは、小沢健二は裏切りの連続にも見えてました。ソロのファーストアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』に戸惑うフリッパーズファンは多かったし、セカンドアルバムの『LIFE』は、王子様キャラに違和感を覚えたり。それでもどこかしら惹かれるものがあったりしてついてきたんだけど、難解なサードアルバム『球体の奏でる音楽』でまた裏切られて、一九九七年にシングル「ある光」を、一九九八年に「春にして君を想う」を出して、気づいたときには目の前からいなくなってしまっていた。繰り返し裏切られているなっていう思いがあります。
宇野 
 どうだろう(笑)。どのタイミングで裏切られたと思ったかは本当に人によって千差万別だと思うし、僕のように一度も裏切られたと感じたことがないフリッパーズ・ギター時代からのリスナーもいるだろうけど(笑)。ただ、ファンであることがきつかった時期はありましたよ。それは『LIFE』が大ヒットして、武道館だとか横浜アリーナだとか、そういう大きな会場でライブをやるようになった時期で。一気に若い女の子のファンが増えて、小沢健二と同年代の男のファンが雲が散るようにいなくなった。ライブ会場に行くと、座席には赤いスポンジの付け鼻が置いてあって、これをつけてみんなで踊ろうみたいなことになってる。自意識の強い二〇代半ばの男として、さすがに「これ以上はついていけないかも……」と思いました(笑)。
速水 
 それで、フリッパーズの片割れ、小山田圭吾のコーネリアスに走った人もいましたよね。
宇野 
 「それで」っていうのはあまりないんじゃないかな(笑)。フリッパーズ・ギター時代からのファンは二人の最初の頃のソロ作品はどっちもみんな聴いていたし。

でも、その頃に小沢健二から離れていった人はいますね。その後、小沢健二の活動は、出すと言っていたアルバムが一向に出なかったり、一見するとバラバラな方向性のシングルを次々にリリースしたりと、傍目からはだんだんコントロールを失っていったように見えました。そのまま日本からいなくなっちゃうわけだから、本人にとっては大変な時期だったってことは今になればわかるんですけど、その時期のシングルは毎作まったく予想できないような作品ばかりで、混乱すると同時に、自分はとてもワクワクさせられましたね。
速水 
 人気者の座から、自ら降りるような無軌道な活動をしていた。そして、とうとう日本を離れてしまったわけですね。
宇野 
 ニューヨークに渡ってから制作された二〇〇二年のアルバム『Eclectic』は、さらにこれまでのリスナーをふるい落してしまうような作品でした。歌詞はエロティックだし、歌もウィスパーヴォイスっぽい歌い方になっていて。音楽的にとても興奮させられる作品でもあったと同時に、『LIFE』以降のポップ・スター的なライブの客席で居心地の悪い思いをしてきた同性、同年代のファンとして、ようやく生身というか、等身大の小沢健二が帰ってきたというような思いもありました。勝手な思い込みですけどね。
速水 
 『Eclectic』は、世間的には違和感を覚える人が多かったけれど、宇野さんにとってはむしろそちらが、「俺の小沢健二」だったと。彼の音楽は、僕には転向の連続に思えたけど、宇野さんは、ぶれていないと書いています。
宇野 
 表面的にはいろんなスタイルに挑戦をしてきたわけですが、本質的なところはずっと同じだと思ってます。
速水 
 異色作とみなされている、二〇〇六年のインストゥルメンタル作品『毎日の環境学』も「過去の小沢健二の痕跡が随所にちりばめられている作品」だと。それは当時から変わらず感じていたことですか。
宇野 
 いや、『Eclectic』と『毎日の環境学』は当時も今も大好きな作品ですけど、やはり時間が経ったことでわかってきたことも多いです。

ただ、『毎日の環境学』がリリースされた頃には、小沢健二は父親のドイツ文学者の小澤俊夫が所長を務める「小澤昔ばなし研究所」の季刊誌『子どもと昔話』で「うさぎ!」という童話の連載を初めていて。そこには、ずっと触れることができなかった彼の言葉が洪水のように溢れていた。そこから、音楽作品への理解も深めていくことができるようになりました。もっとも、一般の書店でほとんど扱われず、特にその頃は郵便振替や銀行振込で購読を申し込まないと読めないような季刊誌だったから、読者の数自体は限られたものでした
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この記事の中でご紹介した本
小沢健二の帰還/岩波書店
小沢健二の帰還
著 者:宇野 維正
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作) /福音館書店
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作)
著 者:小沢 健二
編 集:日米恐怖学会
出版社:福音館書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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