対談=宇野維正×速水健朗 大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~ 『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月8日 / 新聞掲載日:2017年12月8日(第3218号)

対談=宇野維正×速水健朗
大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~
『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に

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第3回
アンビバレントな超越

小沢健二の帰還(宇野 維正)岩波書店
小沢健二の帰還
宇野 維正
岩波書店
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速水 
 本書は「うさぎ!」はもちろん、数か月で消滅したブログや、今や小沢健二のライブではおなじみとなった朗読などから言葉の一部と、音楽活動の足跡をつなぐことによって、空白期が埋められていく。その過程が、そのまま本の進行になっていますね。
宇野 
 そうです。彼自身がその時代のことを、詳らかに語ることは今後もないでしょう。そう思っていたから、この本を書き始めたわけですけど、ちょうど執筆中の十月に放送されたNHK「SONGS」でも、小沢健二は、過去について語るかわりに、今やっていることで伝えたいと明言していました。仮に彼がインタビューを受けて、何万字もの活字となって空白期が語られるのであれば、そこに正史のようなものができあがる。でも、そういうことはきっとこの先も起こらない。だから、この本の存在理由があるとしたら、本人が語らない時代について書いた本、ということになります。それがわかっていたから、できるだけ個人的な解釈のようなものは避けてます。
速水 
 この本を読んで思い出したのは、『ジョン・レノン ロスト・ウィークエンド Instamatic Karma』という、ジョンの愛人のメイ・パンの視点で書かれた、正史にはなかった話。
宇野 
 あ、読んだことないです。
速水 
 メイ・パンは、オノ・ヨーコのマネージャーだった中国系移民で、ヨーコ公認のジョンの愛人だった人です。一時期、ヨーコと別れたジョンは、メイ・パンとロサンゼルスでパーティ三昧の暮らしをしていたんです。

日本から離れた小沢健二は、中南米やアフリカなどを巡っているなど、反アメリカ、反グローバリゼーションに根ざしたような放浪生活をしていたんだっていうイメージがありましたけど、本書では別の側面、ニューヨークでの『グレート・ギャツビー』的生活を推測していきますね。Jay―Zとの意外な交流など、事実から、謎を解き明かしていくのは面白かった。
宇野 
 反グローバリゼーション的な世界に傾倒しているかのように思われていた放浪生活前には、その真逆ともいえる、グローバリゼーションの中心都市ともいえるニューヨークでの華やかな社交生活があったのではないか。スコット・フィッジェラルドの『グレート・ギャツビー』に触れた部分も、その舞台として知られるロングアイランドのハンプトンでのパーティー・ライフについて、彼が当時のブログで書いていたことからの推論です。
速水 
 それは恐らく、この本で初めて解かれたところだと思います。彼は華やかな世界が嫌いになったわけではなかった。

空白期に生まれた誤解の一つに、「オザケンは環境活動家になった」というものがあったと。でも本書はそれを批判している。二〇〇六年に発売になったアルバム『毎日の環境学』がまさに誤解の一旦だと思うんですけど、宇野さんは、環境学=エコロジーとは、「より広い意味での、人間と人間を取り巻くあらゆる環境との関係について考察する学問のことを指す」と解釈を正しています。小沢健二にとっての関心は、「人間と自然」よりも「人間と人間」が作り出す社会のあり方とその変化の可能性なのではないかと。

宇野さんは、小沢健二の活動の分かりにくさと、それに対するメディア等の周囲の理解が噛み合わないことに、もどかしさを感じてました?
宇野 
 小沢健二自身は自分はどう見られているかなんてことは、当時は気にもしてなかったでしょう。ただ、二〇一〇年に「ひふみよ」ツアーでライブ活動を再開させるにあたって久々に日本のメディアからの接触があった時は、自分の活動についての誤解が流布されていることについて、「皮肉でも冗談でもなく、まったく見当がつきません」と文章にしてましたが(笑)。
速水 
 ただ、小沢健二にはそういう誤解されやすい部分というのがありますよね。今でもテレビに出るたびに、着ているハイブランドのニットの値段が話題になったりする(笑)。「痛快ウキウキ通り」の歌詞には「プラダの靴」が出てきたし、ずっとマガジンハウスの『オリーブ』に連載をもっていたし、二〇一〇年に久々に商業誌に文章を書いたのはファッション誌『ヴォーグ・ニッポン』だし……そうした資本主義の申し子のような側面の一方では、反米運動が盛んな時期の南米の市民デモにコミットしたりもしている。
宇野 
 一見アンビバレントにも見えるけれど、きっと彼の中ではすべて筋が通っているんですよ。そういう意味では、ちょっと超越した人(笑)。
速水 
 それから当時、彼が共感していたのが「ウォール街を占拠せよ」運動ですね。これは二〇〇八年に起こったリーマン・ショックを引き金に、一握りの富裕層への優遇措置の反対を訴える運動ですが、一方で、きっと当時も彼はニューヨークの華やかな生活とまったく無縁になっていたわけではない。でも同じ世代の、同じく都市に生きている人間としては、正直なところ両方の気持ちがあるよな、とも思うんです。ちょっといい服を着てパーティに行く楽しさと、世の中のおかしさに物を申したい気持ち。「ウォール街を占拠せよ」運動は、大学生と労働者、属する立場の違う人たちが一緒に行ったところが、運動として珍しかったといわれています。自著の『フード左翼とフード右翼』という本に書きましたが、そこに集った大学生たちは、オーガニック農家からカンパの野菜が届き、ニューヨークで一番おしゃれなカフェが食料を提供する、そういうことが可能な人脈を持つ人々でした。どちらかというと、その運動で糾弾している一%のトップ企業に就職してもおかしくないエリートたち。それが反対運動の主力であるという矛盾した側面、ここにもアンビバレントさがありました。
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この記事の中でご紹介した本
小沢健二の帰還/岩波書店
小沢健二の帰還
著 者:宇野 維正
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作) /福音館書店
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作)
著 者:小沢 健二
編 集:日米恐怖学会
出版社:福音館書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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