対談=宇野維正×速水健朗 大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~ 『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月8日 / 新聞掲載日:2017年12月8日(第3218号)

対談=宇野維正×速水健朗
大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~
『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に

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第4回
この街の大衆音楽の一部であること

宇野 維正氏
宇野 
 実は、企画段階で作った目次は、内容は同じく不在期間を探ったものではあったんですけど、今とはまったく違っていて、小沢健二を家系から読み解く構成だったんです。彼は家系からして、まったくもってアンビバレントなんです。父はドイツ文学者、母は臨床心理学者の小沢牧子、そして叔父は世界的な指揮者の小澤征爾。そのあたりまではよく知られていますが、征爾の名は、その父の小澤開作が、日本陸軍の超大物、板垣征四郎と石原莞爾の二人から、一字ずつ取って名付けたと言われています。かつて小沢健二はダウンタウンが司会の音楽番組「HEY!HEY!HEY!」で、「僕のおじいさんは右翼の大物」などと冗談めかして言ってましたが、小澤開作は右翼どころか、その思想の体系を作った生粋の民族主義者であり、当時、満州国の理念を、板垣、石原と共に築いたような歴史上の重要人物です。そして母方の祖父は、下河辺孫一というサラブレッドの生育牧場・下河辺牧場の創設者。そして漢字こそ違いますが同じ「ケンジ」という名を持つ曽祖父は、日本鉱業(現・JXTGエネルギー)の元社長の下河辺建二。当時の日本の石油輸入の元締めのような存在ですね。つまり、小沢健二は日本の思想界と産業界の文字通りトップのような人物を、その家系に持っているんです。僕が興味があったのは、そうした血統が、ある種の行動規範として小沢健二に影響を与えているのではないか、ということでした。彼が大衆音楽家としての道を選んだ背景には、一族に小澤征爾という非大衆音楽界における世界的な存在がいたからだとも思ったんです。
速水 
 僕は小沢健二がたどり着いた場所として「この街の大衆音楽の一部であることを誇りに思います」という台詞があったんだと理解してるんですよね。この発言は、二〇一〇年の「ひふみよ」ツアーの中での言葉です。「痛快ウキウキ通り」でプラダの靴を書き、「カローラⅡにのって」でトヨタのCMソングを歌った。「うさぎ!」を読んでわかるようにグローバル企業を批判するモードにあった小沢健二が、これらの曲を当時のツアーでそのまま演奏するのかということは、誰もが注目しました。でも、歌った。このときのMCで語っていたのは、トヨタのハイエースのこと。世界各地の人びとの生活になじんだ、日常を支える車を作っている。そういう企業として向き合って今、自分はこの歌を歌うのだと。そういうグローバル資本主義と自分が過去に組み込まれていた消費社会を重ねて見る逡巡の末に、「この街の大衆音楽の一部」、つまりは大衆音楽の従事者という自身の既定という結論につながっているのかなって。つまり、ポップス=大衆の側のものという場所にたどり着いた。
宇野 
 確かに、「大衆音楽の一部であることを誇りに思います」という言葉は、年月をかけて彼が手に入れたものだったのかもしれません。ただ、面白いエピソードがあって。ソロデビューアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』には、東芝EMIの大昔のロゴが使われているんです(現在流通している同作は、『dogs』というタイトルで、アートワークも変わっている)。九十三年の発売なのに、その何代も前の東芝EMIのロゴが印刷されている。聞いた話によると、小沢健二は当時の東芝EMIの社長に、どうしても昔、小澤征爾が東芝EMIからリリースした作品と同じロゴにしたいと直談判したそうなんです。
速水 
 (笑)。そんなこと、よくいうなぁ。
宇野 
 普通に考えたらありえないですよね。所属したばかり新人、ソロとして最初のアルバムですよ。まぁ、普通に考えたらありえないことばかりしてきたのが小沢健二という人なんですが、そういうエピソードを聴くにつけ、小澤家、あるいは下河辺家も含めて、そうした彼の特殊なバックグラウンドはその行動規範に少なからず影響を与えているだろうと推測してしまうわけです。ただ、それで小澤開作の評伝だとか、その奥様の小沢さくらさんの著作とか、その当時の満州をめぐる民族主義関連の本だとか、そういう本を集めて読み進めていたのですが、これはいけないところに足を突っ込み始めてしまったなと(笑)。
速水 
 どこから書き始めるって、フリッパーズ・ギター結成当時どころじゃなくて…。
宇野 
 満州から(笑)。
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この記事の中でご紹介した本
小沢健二の帰還/岩波書店
小沢健二の帰還
著 者:宇野 維正
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作) /福音館書店
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作)
著 者:小沢 健二
編 集:日米恐怖学会
出版社:福音館書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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