対談=宇野維正×速水健朗 大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~ 『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月8日 / 新聞掲載日:2017年12月8日(第3218号)

対談=宇野維正×速水健朗
大衆音楽家、小沢健二の帰還~光を照らす者~
『小沢健二の帰還』(岩波書店)刊行を機に

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第6回
言葉で、音楽で、都市や生活を変えてゆく

小沢健二の帰還(宇野 維正)岩波書店
小沢健二の帰還
宇野 維正
岩波書店
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速水 
 小沢健二のどこが好きか、僕はこれまで自分でうまく言葉にできてなかったんですけど、本書の後半のパートでよく飲み込めました。それがスチャダラパーの言葉で「ダサカッチョ」。それはヒップホップの醍醐味でもあるんだけど、キッチュさと切なさと、かっこ悪さをきちんとやっている。そこにいつでも惹かれるんです。はじめて「愛し愛されて生きるのさ」を聴いたときの感動と今年の「流動体について」がまさに同じような「ダサカッチョ」の体験なんです。小沢健二は、切なさや哀れや情けなさをそのまま出さない。面白おかしく、ポップに出してくる。かっこ悪くてかっこいい。そのブレの大きさが、沁みるんです。
宇野 
 ダサカッチョ、つまりそれが、小沢健二の考える「大衆的な音楽」なんですよね。そういう意味では、やっぱり『Eclectic』と『毎日の環境学』はちょっと異質だった。で、「魔法的」ツアーの新曲から、かつてのダサカッコよさが戻ってきた。
速水 
 「魔法的」の新曲のことを「ディスコ歌謡」だと書いていましたよね。ディスコ歌謡という言葉の矛盾感も含めて、小沢健二的だと思う。補足的な話になりますが、小沢健二の「大衆音楽家」という言葉と合わせて考えると、彼が大事にしているのは、つまり「都市」ですよね。「流動体について」自体、東京の街への帰還が歌われている。小沢健二はニューヨークに住み、あるいは世界各地の都市に滞在し、都市って何だろう、そこに賑やかに流れる大衆音楽って何だろうと考え続けて、今、東京に帰還したのだと思うんです。新左翼も環境運動家も、都市から撤退する人たちは、白人優越主義的な社会や、グローバリズムに侵される場所として都市を見るけれど、小沢健二はそうではない。白人優越主義も、グローバリズムにも不信感はあるけれど、それとは別に、人々が暮らして、笑ったり泣いたり怒ったりして生きている都市が好きだ、と。そこが、活動家や運動家ではない、音楽家・小沢健二なんじゃないかなって。世界中の都市を歩き、暮した上で、今また、東京を歌い始めた。
宇野 
 「意思は言葉を変え 言葉は都市を変えてゆく」というフレーズとともに、彼は「流動体について」で日本の音楽シーンに帰ってきました。例えば小沢健二とも交流のある椎名林檎は、近年、政治や企業に働きかけて、オリンピック直前の東京をどのような街にしていくかというところにまでコミットしています。小沢健二が政治に関わることはないだろうけれど、やはり彼も言葉で、自分の音楽で、都市や生活のあり方を変えようとしている。ロックには、六〇年代後半、世の中を変えることを夢見て、敗れ去ったという歴史があります。僕らの世代にとってロックは、その夢が敗れた後のもので、せいぜい世界は変えられないけど自分は変えられる、というような、ありきたりなアフォリズムにおさまってしまっていた。でも、きっと小沢健二は世界と自分の間にあるものとして、都市という存在をとらえている。「人間と人間」の新たなつながりを音楽や文章にすることで、今の生活を少しずつ変えて、社会を少しずつ変えて、都市を少しずつ変えていくことができるかもしれない。それが本当の意味での『毎日の環境学』ということなのかもしれません。
速水 
 彼が歌う東京は、首都としての東京ではなく、ローカルな場所としての東京、ですよね。暮しとか、匂いとか、思い出をまとった場所。
宇野 
 今回、小沢健二の文章をまとめて再読して、改めて彼が思想的な人間というよりも、新たな視点の提供者であることを認識しました。彼がこだわり続けている「都市」というテーマも、そういう意味で、新しい視点なんですよね。
速水 
 年を経て意識化されたのだと思いますが、小沢健二は最初から、街を描いてきた作詞家ですよね。駅からの道を「君の住む部屋へと急ぐ」。生活と都市です。なぜ僕が、僕らが、あの一行に感銘を受けて、こんな歌ほかにないと思ったのか。「流動体について」も同じで、生活と都市。同じところが心にひっかかってくる。僕自身もこの二〇年の間に、ぐるっと回って、ここへ辿り着いた気がしています。
宇野 
 だから、結構時間がかかるんですよ。小沢健二がやっていることの真意を理解するまでには(笑)。(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
小沢健二の帰還/岩波書店
小沢健二の帰還
著 者:宇野 維正
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作) /福音館書店
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作)
著 者:小沢 健二
編 集:日米恐怖学会
出版社:福音館書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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