登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた 書評|佐滝 剛弘(勁草書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年12月9日

地域と建物を考えるきっかけに 
多種多様で身近な文化財

登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた
著 者:佐滝 剛弘
出版社:勁草書房
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古い建物の保存や活用に携わっている専門家ならまだしも、一般の方々には建物にある「登録有形文化財」の標識がどのような価値や評価付けがされているのか全く分からないだろう。建築の専門家でも、国や都道府県・市町村の「指定文化財」と国の「登録有形文化財」の違いをきちんと理解している人はまだまだ少ない。そんな状況の中で、ここまで「登録有形文化財」について400件を越える多くの事例をジャンルごとに分類し平易にかつ詳しく紹介した一般書が今までなかった。1996年に制度が出来て20年あまり、登録された建物数は1万件を越えたにもかかわらず、無かったことが不思議なくらいだ。まずは、そうした意味で大きな意義のある本書の誕生を喜びたい。

本書では触れられていないが、1996年に「登録有形文化財」制度が設けられる大きなきっかけは、1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災にある。阪神淡路大震災前には「指定文化財」の制度しかなかった。突然神戸を襲った阪神淡路大震災で文化財に指定されていなかった地域を代表する歴史的建造物が、その被害状況や、そもそもの存在すら把握できていない中でどんどん壊されてしまったのである。そうした反省から、指定文化財のようにハードルをあげることなく地域に根ざした文化財を登録しリスト化して、より広く地域の方々に知ってもらうことで、日常は勿論、災害が起こった時にも緊急対応が可能になるとの思いで制度化されたのである。こうした成り立ちから今年7月で1万1260件ほどが登録されている中、近畿二府四県で約2700件、全体の4分の1を占めている。

実は私も神戸の自宅で阪神淡路大震災の震度6強の揺れに遭遇した一人で、それは死を意識した瞬間だった。幸い家族、自宅建物共に無事だったが、博物館明治村に兵庫県西宮市から移築されたとしてこの本で紹介されている登録有形文化財「芝川家住宅」(武田五一設計・1911年竣工、2007年移築竣工)が大震災で半壊、私の所属する竹中工務店大阪本店設計部と神戸大学の学生有志が移築のための実測調査をしたのだった。博物館明治村に移築後保存公開されて良かったと思う反面、西宮市に遺っていれば地域を代表する景観の中心として、著者の言う「地域のストーリーを発信する小さな宝石箱」になりえたのにと悔やまれる。

登録有形文化財は、誰もが知っている東京タワーや大阪城天守閣など多種多様で身近なものだということをこの本は教えてくれている。登録有形文化財に登録されることによって、先ずはその建造物が建つ地域の皆さんに認知されるようになり、さらに地域の皆さんがその保存活用に積極的に参加することで、より、その建物への愛着が生まれて、世代を超えてさらに大切にしていく継承がはかられていく。それは行政が指定するのではなく、所有者自らが手を挙げて名乗り出る登録有形文化財だからこその好循環だと思う。

大地震や大火などの大規模な災害で地域の大切な記憶装置でもある建物が突然無くなる経験をすると、その大切さが分かる。当たり前のことだが、建物は動かない。だからこそ面白い、地域に根ざせるからだ。著者も「登録有形文化財はそれぞれの地域の風土や歴史を背負って今に残っているわけだから、そこに注目することは地域そのものに光をあてることにつながる。」と述べている。さらに、建築の専門家だけが建物の保存や活用を担っているのではなく、誰でもが著者の言うように「一人の市民としてそれを支える側に回ることは可能だ。」身近な登録有形文化財とその所有者に何よりも興味や関心を持つことがスタートラインになる。なんと驚くことに全体の約9割を訪れていると言う著者だからこその充実した内容だ。読者の皆さんも是非本書を端緒に地域にある登録有形文化財を次世代に遺す活動に参加してほしいと思う。きっと「戦前の人々の美意識の素晴らしさ、奥深さ」に出逢えるだろう。
この記事の中でご紹介した本
登録有形文化財  保存と活用からみえる新たな地域のすがた/勁草書房
登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた
著 者:佐滝 剛弘
出版社:勁草書房
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年12月8日 新聞掲載(第3218号)
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