カラヴァッジョを読む 二点の通称《洗礼者聖ヨハネ》の主題をめぐって 書評|木村 太郎(三元社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年12月9日 / 新聞掲載日:2017年12月8日(第3218号)

カラヴァッジョを読む 二点の通称《洗礼者聖ヨハネ》の主題をめぐって 書評
最新のカラヴァッジョ研究の水準を示す 
先行研究を丁寧に読み込み検証

カラヴァッジョを読む 二点の通称《洗礼者聖ヨハネ》の主題をめぐって
著 者:木村 太郎
出版社:三元社
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カラヴァッジョはイタリア最大の巨匠にして、西洋美術史上はじめて写実主義を確立して近代美術への扉を開いた天才である。一方、この画家は犯罪者でもあった。何度もの暴行事件の挙句、ついに殺人を犯し、南イタリアやマルタを逃亡しながら制作し、小さな港町で斃死したのだが、その波乱の生涯も注目され、何度も映画化されている。

カラヴァッジョの絵は今なおローマやナポリの教会で、四百年前から変わらず、強烈な光を放っている。それらを前にした人は誰でも、力強く劇的な画面に言葉を失い、立ちすくむことだろう。イタリアでは今やレオナルドやミケランジェロをしのぐ人気を誇っており、その作品の前ではいつも人だかりができている。そして、欧米ではこの画家の研究は「カラヴァッジョ学」と呼べるほど分厚く蓄積され、年を追うごとにますますさかんになっている。

ところが日本ではずっと知名度が低く、研究者も少なかった。評者は長年この画家について研究し、五冊の本を刊行したのだが、近年、日本でもようやくこの画家のことが知られるようになり、昨年、国立西洋美術館で開催された「カラヴァッジョ展」が多くの観客を集めたことは記憶に新しい。日本で最初に紹介されたのは、二〇〇一年、東京都庭園美術館と岡崎市美術博物館での「カラヴァッジョ展」であったが、このときよりも格段に知名度が上がったのを、両方の展覧会に関わった評者は実感した。

本書は、この画家に魅せられた若い美術史研究者が、その作品の解釈に挑んだ成果を集めたものである。とくに、図像学的に特異な点のある二点の「洗礼者ヨハネ」について、その意味を解明しようとしたものが中心になっている。そのうち、カピトリーノ美術館にある中期の作品は、「解放されたイサク」という別のテーマ、ボルゲーゼ美術館にある晩年のものは、キリストが重ねられたイメージであると結論づける。先行研究を丁寧に読み込み、正統なイコノロジー(図像解釈学)の方法に基づき、描かれたアトリビュート(持物)やモチーフ、全体的構図などの要素をひとつひとつ丁寧に検証していく。その結果の解釈は、いずれも評者が一七年前に発表し、二〇〇四年の拙著『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会)にも収録した説に近いものだが、それをさらに精緻に考察して補強・修正し、手堅い考証によって推し進めたものといえよう。若干の疑問もあったが、専門的な話題になるので措く。

さらに、フィレンツェのウフィツィ美術館を飾るカラヴァッジョの「メドゥーサ」は凸面の木製の盾に描かれたものだが、その特殊な表現の理由を探っている。同じメディチ家の武器庫にあった金属の盾に対抗し、彫刻に対する絵画の優位を示そうとするものであったという論であった。つまり、当時流行ったパラゴーネ(諸芸術比較論争)から作品の特殊性を説明するものであった。これが評者にとってはいちばん納得のいく論で、本書中の白眉といってよい。

また、ナポリでカラヴァッジョの影響を受けたカラッチョロの「洗礼者ヨハネ」と、原作は失われているがカラヴァッジョが最後に描いたと思われ、数点の模写の伝わる「泉に寄るヨハネ」についての小論が収録されている。いずれも前述の「洗礼者ヨハネ」の論の延長線上にある妥当な論考である。

本書は著者の博士論文をまとめたものだが、いくつかは海外の学術誌にも投稿されたものであり、日本における最新のカラヴァッジョ研究の水準を示すものとなっている。こうした若い研究者がカラヴァッジョの作品研究に邁進するのは喜ばしい限りであり、著名な画家だからといって怖気づくことなく、果敢に挑んでこつこつと研究を重ねてまとめあげた点は大いに評価してよい。今後、さらに研究を積み重ねて進展させることを期待したい。今後この画家についての研究を志す者がこれに続くことが望まれるが、本書はそうした者にとっての道標となるであろう。
この記事の中でご紹介した本
カラヴァッジョを読む 二点の通称《洗礼者聖ヨハネ》の主題をめぐって/三元社
カラヴァッジョを読む 二点の通称《洗礼者聖ヨハネ》の主題をめぐって
著 者:木村 太郎
出版社:三元社
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