2017年の収穫 41人へのアンケート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月15日 / 新聞掲載日:2017年12月15日(第3219号)

2017年の収穫 41人へのアンケート

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第3回
西野智紀

宮崎学、小原真史(文・構成)『森の探偵無人カメラがとらえた日本の自然』(亜紀書房)。
千葉聡『歌うカタツムリ進化とらせんの物語』(岩波書店)。
寺尾紗穂『あのころのパラオをさがして日本統治下の南洋を生きた人々』(集英社)。
『森の探偵』は、無人カメラを駆使して半世紀近く日本の野生動物を撮影してきた写真家による調査報告書。人間社会の間隙を縫ってしたたかに生きる動物たちの素顔は、今まで盛んに唱えられてきた里山の「自然破壊」議論がもはや過去の遺物であることを示す。比類なき啓蒙書として、瞠目しながら読んだ。
『歌うカタツムリ』は、あの小さくて可愛らしいカタツムリをめぐる進化研究から、幾度となく繰り返す人間の歴史を語ってみせんとする科学書。文筆家顔負けの明朗な筆運びもさることながら、カタツムリの殻のらせん構造になぞらえた本文構成も圧巻。毎日出版文化賞受賞も納得の一冊である。
『あのころのパラオをさがして』は、中島敦の南洋もの作品群を端緒として日本の植民地下時代のパラオを追い求めるルポルタージュ。証言者の生の声を容易に咀嚼せず、地に足の着いた確かな存在として書き留めようとする著者の真摯な姿勢に、戦争を知らない人間が持つべき心のありようを教えられた。(にしの・ともき=書評家)
江川純一

秋頃、アンドルー・ラング『夢と幽霊の書』(ないとうふみこ訳、作品社)を毎晩、眠る前に少しずつ読んだ。本年最良の日々であった。ラングは、マックス・ミュラーの自然神話説を批判することで神話研究を社会人類学と接続し、次いでタイラー批判のなかで最高存在論を主張した、宗教学史上の最重要人物の一人である。したがって本書にも、人間とはいかなる存在かを明らかにしようとする研究者の眼差しがある。
フェルディナン・ド・ソシュール『伝説・神話研究』(金澤忠信訳、月曜社)は、今後、神話研究史における位置づけが必要な重要文献。
太田峰夫『バルトーク音楽のプリミティヴィズム』(慶應義塾大学出版会)のなかの、バルトークの創作活動の基礎は「文化ナショナリズム」ではなく「藝術のプリミティヴィズム」だったという指摘。彼の民謡研究の関心は「ハンガリー系農民」と「大作曲家」の藝術的創造にあったという見解には、大いに刺激を受けた。(えがわ・じゅんいち=東京大学大学院助教・宗教学)
荒川洋治

存在感のある人――アーサー・ミラー短篇小説集』(上岡伸雄訳、早川書房)は、劇作家の小説集。ハイチの山地で会った男の事業を描く「テレビン油蒸留所」、歴史のなかの夢「パフォーマンス」など六編。強い集中力で、主人公の内部に光を入れていく。動物を見つめる「ビーバー」も傑作。戯曲とは異なる小説の境地を明示する。小説家アーサー・ミラーの代表作。
上野誠『筑紫万葉恋ひごころ』(西日本新聞社)は筑紫で生まれた万葉の名歌をもとに、古代社会とことばの深みへいざなう。文中の余白には著者の記憶なども添えられて楽しい。新しい空気が漂う、すてきな本である。
国立歴史民俗博物館編『わくわく探検れきはく日本の歴史3近世』(吉川弘文館)は、子ども向けの歴史ガイド全五巻の初回配本で、江戸時代の眺望。あまり知られないことや人物にもふれて歴史の感興を高める。おとなも知らないことを知る。(あらかわ・ようじ=文化学院講師)
金原瑞人

ピョン・ヘヨンの短編集『アオイガーデン』(きむふな訳、クオン)がすごい。とくにディストピア的世界をグロテスクに濃密に描き出した「アオイガーデン」と「貯水池」の迫力には感服。読者を震撼させる異色の一冊。韓国映画の鬼才、キム・ギドクにも通じるものがある。
ジョー・ウォルトンの『わたしの本当の子どもたち』(茂木健訳、創元SF文庫)は、1926年生まれのパトリシアが大戦後、結婚した自分と、結婚しなかった自分のふたつの人生を生きるパラレルワールド物。どちらの世界も現実の世界と微妙にずれているところが絶妙。
『親愛なるミスタ崔隣の国の友への手紙』(クオン)は作家になる前の佐野洋子がベルリン留学中に知り合った、韓国人の崔禎鎬(のちに大学教授になり、記者や特派員も務める)に宛てた書簡集。憧れの人に自分を知ってほしい(過去も現在も未来も)女の子の気持ちがぎゅうぎゅうに詰まっている。(かねはら・みずひと=翻訳家)
谷藤悦史

美酒と黄昏(小玉 武)幻戯書房
美酒と黄昏
小玉 武
幻戯書房
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トランプ政権の誕生を典型に、フランスのマクロン政権、ドイツやオーストリアの極右政党の台頭など「ポピュリズム」が世界を席巻している。これに呼応し、「ポピュリズム」を問う出版が世界で続いている。わが国も同様である。ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』(板橋拓己訳、岩波書店)は、「ポピュリズム」の課題を簡潔に明らかにし、わが国の「ポピュリズム」の議論に示唆を与えた。
湯浅博『全体主義と闘った男河合栄治郎』(産経新聞出版)は、左・右の全体主義に対峙した彼の生涯を描く。河合栄次郎は、「ポピュリズム」運動とは対極にあると言える。今こそ、彼の思想は見直されるべきではないか。
小玉武『美酒と黄昏』(幻戯書房)は、歳時記にならって春から新年へと滋味あふれる句歌を紹介して、近・現代作家の生の営みを描く。「美酒と黄昏」の場面が、美しい幻影のように流れている。(たにふじ・えつし=早稲田大学教授・政治学)
中森明夫

(1)藤崎彩織『ふたご』(文藝春秋)。SEKAINOOWARIが、なぜ現代の若者にこれほど支持される人気バンドなのか?メンバーSaoriの初小説によってその真実の一端を痛切に感じた。これは優れた表現者が一生に一度だけ書ける小説だ。ここには嘘が一行もない。しかし、なぜ小説なのか?今年、最も感動した一冊に、むしろ小説という表現の奥深さを思い知らされた。
(2)和久井光司『ビートルズはどこから来たのか』(DUBOOKS)。ミュージシャンである著者が圧倒的な情報量と情熱と強度で論じ切った大著。副題〈大西洋を軸に考える20世紀ロック文化史〉、ビートルズとボブ・ディランの対比論考が実にスリリングだ。ロック/ポップ批評の金字塔がここに誕生した
(3)レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』(垂野創一郎訳、筑摩書房)。ウィーンの山田風太郎とも称される魔術的作家の短篇集。百年前の小説がこれほど面白いとは……傑作!(なかもり・あきお=作家・アイドル評論家)
堀千晶

ミシェル・レリス『ゲームの規則Ⅱ軍装』(岡谷公二訳、平凡社)は、うねり、たわみ、ねじれる「バロック」な迷宮的文体ながら、しかし徹底して簡素な、どこかつねに静謐な死の気配が漂う、凄まじい、きわめて特異な文章家の散文。人類有史全体に、いわば喧嘩を仕掛ける金滿里の宣言文と、不和をも覆い隠さぬ、馴れ合いなき幾つもの対話とからなる、劇団態変編著『劇団態変の世界身障者の「からだ」だからこそ』(論創社)は、重力と斥力を顕在化させながら、からだが「在る」ということの、その蠢きを示し、ただダンスの起源の在処のみを照射し続ける、圧倒的に稀有な著作。遠藤正敬『戸籍と無戸籍「日本人」の輪郭』(人文書院)は、戸籍というイデオロギー装置の由来と現状を、広範な資料調査によって抉り出す歴史書にして、国家主義的制度との訣別を促す、諸概念を精緻に記述する鋭利な哲学書。本年の枠には絶対収まりきらぬ三作が、ぜひ広く読まれることを願う。(ほり・ちあき=仏文学者)
田中和生

昨年は、イギリスのEU離脱決定やアメリカ合衆国でのトランプ大統領誕生など、びっくりするような出来事が多かったが、それを受けて「なぜ」を問う本が目立った。まずイギリスについては、ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)が、著者がイギリスで保育士をしていた経験を生かし、圧倒的なリアリティでイギリスの現状を描いている。次にアメリカについては、金成隆一『ルポトランプ王国』(岩波新書)が労作。格差が広がるアメリカで、いまもアメリカンドリームは生きているかと問い、取材を重ねてトランプが支持されるアメリカの現実をありありと記録した。人間の格差や分断は、日本でも他人事ではない。東アジアの政治的な緊張状態を反映し、震災後に在日朝鮮・韓国人へのヘイトスピーチが目立つようになったが、当事者である柳美里『国家への道順』(河出書房新社)が、驚くほどしなやかな日本語で日本の現状に警鐘を鳴らしている。必読。(たなか・かずお=文芸評論家)
青木亮人

田島健一『ただならぬぽ』(ふらんす堂)。ジジェクを愛読し、加藤楸邨の系譜を受け継ぐ俳人の第一句集。「西日暮里から稲妻見えている健康」「ひとみごくうの瞳のうごく花野かな」等、そして句集名の「ただならぬ海月ぽ光追い抜くぽ」。意味と物語を脱臼させる手管が充実している。
関悦史『花咲く機械状独身者たちの活造り』(港の人)。「人類に空爆のある雑煮かな」等で知られる俳人の第二句集。「伊勢海老の頭部の歩く日本かな」「シャワー後のTシャツも借り友と眠る」「戦場の洗濯は重し少女みな脱腸」等を収録。震災、BL、諸芸術等の文脈が俳句的写生の力強さによって昇華されている。
福田若之『自生地』(東京四季出版)。嘱望される二十代俳人の第一句集。「ながれぼしそれをながびかせることば」「こすれあうまなざしふきのとうひざし」「名はパピコあやまちの真冬のめだか」等、言語の空虚さと存在への切実さがコインの裏表のように重ね合わされている。(あおき・まこと=近現代俳句研究者)
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