2017年の収穫 41人へのアンケート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月15日 / 新聞掲載日:2017年12月15日(第3219号)

2017年の収穫 41人へのアンケート

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第4回
豊﨑由美

舞台はナチス政権下にあるドイツの大都市ハンブルク。軍需会社の経営者を父に持つ、ジャズに夢中な15歳のエディら、イケてる青年たちの青春群像を描いた小説が、佐藤亜紀の『スウィングしなけりゃ意味がない』(KADOKAWA)だ。ジャズを禁じるナチスが牛耳る祖国を〈馬鹿の帝国〉と呼び、生の歓びを享受する自分たちの〈正しさの方が、国より上だ〉と言い切るエディらの、まっとうなボンボンぶりと痛快な行状に拍手喝采。
イジー・クラトフヴィルの『約束』(阿部賢一訳河出書房新社)の舞台は共産党政権による独裁体制が強化されつつあったチェコスロバキア。秘密警察に拘束された妹を殺された男の復讐譚なのだが、ノワール小説風の骨子を裏切るエピソードの数々がケッサクで可笑しいのもいい。
パク・ミンギュ『ピンポン』(斎藤真理子訳白水社)は、粗暴な多数派からいらないもの扱いされている少年2人の物語を、ピンポンのルールとSF的設定を用いて描く中、善きことと悪しきことが永遠のジューススコアでラリーを続け、いまだ決着に至っていないのが人類の歴史だという世界観が素晴らしい。(とよざき・ゆみ=書評家)
重信幸彦

■三浦耕吉郎『エッジを歩く手紙による差別論』(晃洋書房)聞き書きの可能性は、他者の言葉や現場の記憶をもとに、机上の議論に早上がりせずに自省を繰り返すことにある、と改めて実感させられる。そして、私自身のなかにうずくまり関係如何で表出しかねない差別の根っこに向き合わされた。■川村邦光『出口なお・王仁三郎世界を水晶の世に致すぞよ』(ミネルヴァ書房・日本評伝選)なおと王仁三郎は、当時の国体言説を借りながら、世の「立替え立直し」を希求しその国体を突き抜けた。特に王仁三郎の大正・昭和維新の実践を語る後半、近代日本に深く規定されまた激しく葛藤した、未成のもう一つの「日本」が鮮やかに立ち上がる。■北九州市立大学監修・竹川大介著『野研!大学が野に出たフィールドワーク教育と大學堂』(九州大学出版会)教育と研究という二分法を蹴飛ばし、学生はもちろん多くの人を巻き込み、互いに思考し創造し、そして変わる。著者の約二〇年にわたる実践のエッセンスが詰まった、元気が出る一冊。(しげのぶ・ゆきひこ=民俗学)
角田光代

子規の音(森 まゆみ)新潮社
子規の音
森 まゆみ
新潮社
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森まゆみ『子規の音』(新潮社)で、正岡子規という風変わりで強烈な人物に出会い、私はもうすっかり夢中になってしまった。日本人と俳句、短歌についても深く考えさせてくれた。読書によって人や事象にこんなにも鮮やかに出会えることに、原始的なほどの興奮と喜びを感じさせてくれた一冊だった。
もともと朗読劇だったという、坂元裕二『往復書簡初恋と不倫』(リトルモア)の、不思議にゆがんだ世界観のとりこになった。ゆがんでいながら、描かれているのはまっすぐな人の気持ちである。それを、たいせつにたいせつに両手で包んで守りたくなるような読後感。
佐々木譲『沈黙法廷』(新潮社)。煽るような言葉も、強い感情も、いっさい排した淡々とした文章なのに、冒頭から張り詰めている緊張感がすごい。その緊張を一ミリも減じないまま小説は法廷劇へと突入していく。ひとりの個人、その個人にかかわった人々の姿を描きながら、ラストは私たちの生きる現実へとじかにつながってくる。(かくた・みつよ=作家)
小野俊太郎

現在の日本を考え直すきっかけを与えてくれた三冊を選んだ。(1)ルシオ・デ・ソウザ、岡美穂子の『大航海時代の日本人奴隷』(中央公論新社)は、改宗ユダヤ人と日本人奴隷の関係を通じて、アジアと新大陸とヨーロッパを移動する日本人が見えてくる。年季奉公と終身奴隷という考えの違いが生み出す悲喜劇が興味深い。(2)苅部直の『維新革命」への道』』(新潮社)は、明治維新から百五十年を前にして、不連続よりも連続を強調する。経済や商業ネットワークの再評価、そして本居宣長と吉田健一や丸山眞男との関連の指摘がおもしろい。(3)岡田美智男の『<弱いロボット>の思考』(講談社)は、ロボットはハードという固定観念を打ち破ってくれた。人間の助けを必要とする完全を目指さないロボットには意表を突かれた。「シンギュラリティ」といった議論とは異なる方向にある。未来のロボットは、人間のパートナーなのか、それとも奴隷なのかなどと考えさせられた。(おの・しゅんたろう=文芸評論家)
角幡唯介

ホサナ(町田 康)講談社
ホサナ
町田 康
講談社
  • オンライン書店で買う
町田康『ホサナ』(講談社)現代の神話と呼んでもいい圧倒的な大作。一見バカバカしい出来事やふざけているとしか思えない修辞を駆使し、最後は黙示録的な深淵に読者を引き込んでいくのだから書き手の力量に茫然とさせられる。町田康の作品の中でも屈指の傑作ではないか。國分功一郎『中動態の世界』(医学書院)中動態という、能動態と受動態に置きかわることで失われてしまった動詞の態を起こしていく哲学書。解明の過程がミステリーのごとくスリリングでぐいぐい読める。言語の世界では失われてしまった中動態だが、じつはわれわれの意識のなかでは今も生きていることがじわじわと露わになっていき、最後はとんでもなく大きな発見と興奮に導かれる。服部文祥『息子と狩猟に』(新潮社)登山や狩猟における山のモラルと下界のモラルとの相克を通じて、人間の欺瞞や恣意性を明るみに出す問題作。登山家としての経験が根底にあるので説得力が凄い。(かくはた・ゆうすけ=作家・探検家)
柴野京子

北田暁大+解体研編著『社会にとって趣味とは何か文化社会学の方法規準』(河出書房新社)。俗流若者論はもちろん、宮台真司らの『サブカルチャー神話解体』が提示した類型化や、ブルデュー理論に拠りすぎた分析の潮流を批判し、若者文化研究のオルタナティブを果敢に示そうとした。二〇一〇年に編者たちが行った調査の結果も反映されている。
デーヴィッド・マークス『AMETORA日本がアメリカンスタイルを救った物語』(DUBOOKS)。アメリカ由来の服飾アイテムが、日本独自の文脈でスタイルや価値観を獲得する経緯を、通時的、共時的に描いた快作。戦後メンズファッション史としても資料性に富む。「トラッド」がチーマーにつながる謎がわかりました。
河野通和『言葉はこうして生き残った』(ミシマ社)。今春休刊した『考える人』の元編集長が、同誌のメルマガに連載した書評エッセイ。というにはあまりにも魅力的な、思考と記憶と経験の文体。(しばの・きょうこ=上智大学准教授・出版流通論)
中村邦生

1『感応の呪文――〈人間以上の世界〉における知覚と言語』デイヴィッド・エイブラム(結城正美訳、水声社)翻訳が待望されていたエコクリテイシズムの先駆的な書であるが、思想家、エコロジスト、人類学者、そして手品師である著者の多岐にわたる仕事が融合する横断的思考の果敢な実践の書だ。ときに小説のようにも読める体験の記述と学術的分析の交差の秀逸な書法もさることながら、〈人間以上〉の世界との感応の可能性の洞察は、まさしく「人間性」の今日的な再定義へ向けた多くの示唆がある。
2『哲学の骨、詩の肉』野村喜和夫(思潮社)野村喜和夫の詩は、哲学的思索の言葉が、しばしば身体的な官能性を帯びる。本書はその方法的背景も仄見え、詩と哲学の往還の来歴を丹念に記している。同時刊行された詩集『デジャヴュ街道』の表現を転用すれば、「数知れぬ交叉路を身にまとった街道そのまま」のような思索の行路を辿った書であろうか。とりわけ井筒俊彦の言語哲学の錬成には西脇順三郎の詩が関与していると論じた章を興味深く読んだ。
3『いなごの日/クール・ミリオン』ナサニエル・ウエスト(柴田元幸訳、新潮文庫)抑えがたい暴発寸前の「過剰」を抱えた作家N・ウエスト。標識を無視して暴走した自動車事故死までも。しばし忘れられた作家であったが、今回の新たな作品選択と新訳によって、アメリカン・ドリームを反転させた「クール・ミリオン」にせよ、ハリウッドの夢の残影を描く「いなごの日」にせよ、この作家の持ち前のグロテスクなブラックユーモアのみならず、より多層的な読みの可能性を魅力的に浮上させている。(なかむら・くにお=作家)
東直子

短詩型文学の世界は大きな過渡期を迎えていることを切実に実感した一年だった。ネットの普及によって一気に広がった実作者の多様化、深化が、顕在化してきたのだと思う。谷川電話の第一歌集『恋人不死身説』(書肆侃侃房)は、〈二種類の唾液が溶けたエビアンのペットボトルが朝日を通す〉のように、卑近な素材から新たな叙情が漂う。谷川は、就職したての若者の日常を描いた「うみべのキャンバス」で第六〇回角川短歌賞を受賞している。岡崎裕美子の第二歌集『わたくしが樹木であれば』(青磁社)は、〈まだ浅い、まだ浅いからと唱えつつ沼に入りぬ濡れていく皮膚〉等、多様な人間関係を独自の身体感覚で表現し、強い印象を残す。佐藤文香編集の『天の川銀河発電所』(左右社)は、「Bornafter1968現代俳句ガイドブック」という副題がついている。座談会などの解説も充実し、新しい時代の若者たちの斬新な俳句が、ぐっと身近なものとして楽しめる。(ひがし・なおこ=歌人・作家)
吉田裕

戸部良一『自壊の病理』(日本経済新聞出版社)は、日本陸軍の政治介入を組織におけるリーダーシップの不在と戦略性の欠如という観点から解明した論文集である。陸軍という組織の病理に焦点をあわせているものの、近年における政―軍関係研究の到達点を示す重要な著作である。内容は実に多岐にわたるが、とりわけ日中戦争に関する分析から大きな示唆を与えられた。
赤嶺淳『鯨を生きる』(吉川弘文館)は、捕鯨産業に従事する「鯨人」の人生と、彼ら彼女らが生きた時代を生き生きと描いている。個人史と同時代史を重ねあわせて描くという叙述スタイルもユニークであり、「捕鯨問題」の裾野の広さを実感させられる。
日本史の史料集としては、『海軍大将嶋田繁太郎備忘録・日記Ⅰ』(錦正社)が有益だ。二・二六事件や日中戦争への海軍の対応、昭和天皇や伏見宮の言動など、興味深い史料を収録している。(よしだ・ゆたか=一橋大学教授・日本近代史)
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