食と健康の一億年史 書評|スティーブン・レ(亜紀書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年12月16日 / 新聞掲載日:2017年12月15日(第3219号)

「適切な食べ物を食べよく歩く」ことを推奨
現代人の健康悪化は座業の増加

食と健康の一億年史
著 者:スティーブン・レ
出版社:亜紀書房
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本書はいきなり「昆虫を食べないなんて」という衝撃的なタイトルの章から始まる。著者によると「昆虫はかつて人間社会の主要なカロリー源だった」らしい。そう言えば私も幼い頃、山深い故郷丹波でかなりの頻度でイナゴの佃煮やクワガタの幼虫を焼いて醤油をつけて食べていた。遠い祖先からの伝統食だったのだろう。

本書は、昆虫食から始まり、果物、肉、魚、でんぷんなどをなぜ人類が食べるようになったのかを一億年に遡って探究する。著者がカナダ系ベトナム人であることが、アジア食材に偏見がないという意味で、この探究に有効に働いていると思われる。著者は、欧米からアジア、アフリカ、オーストラリアなど多くの国々に出かけ、「激しくのたくっている」生きたゾウムシの幼虫など、現地の食物を勇敢にも実際に食べる。そしてなぜそれが食べられるようになったのかという疑問を口にする。一つの疑問は次の疑問へと移り、時には、祖母や恋人の話に飛び、著者の饒舌はどこまで行くのか留まるところを知らず、かつトリビアに溢れている。私は本を読む際、気になる箇所に付箋を貼るのだが、本書は付箋だらけでどこが重要なのか、もはや分からない。例えば「肉は性欲を高める」という気になるタイトルの章は付箋で溢れている。著者は肉には特別な栄養がないと言う。それなのに人類はなぜ、どのようにして肉を手に入れたのかと疑問を提示する。人類には、長時間走る耐久マラソンの才能があるからだろうかと考えたと思ったら、セックスの前に「オスのスズメ三十羽分の脳髄」などから作った十一世紀の媚薬の説明に飛び、動物性食品は「気分を上げる効果」があると結論する。肉には私たちの性的成熟を早める効果があるらしい。だから肉を食べるようになったのだ。

私は、想像の中で著者に「だから恋人たちがセックスの前に焼肉を食べるのですね」と質問する。著者のニヤニヤと笑う顔が浮かぶ。

まるで酒を酌み交わしながら、若くて勢いのある研究者と会話をしているような楽しみが本書の醍醐味ではないだろうか。私は、十年以上も料理家の枝元なほみさんと一緒に料理を作り、それをエッセイに書いているが、著者の話を拝借して読者を驚かせ、興味を惹きたいと、今、本気で思っている。

著者の問題意識は、現代人の慢性病の多くは「祖先が守ってきた食習慣やライフスタイルを変えたことや環境の変化が原因ではないか」というものだ。そしてこの問題意識で書かれた本書は「祖先の習慣のいいとこ取り」をし、祖先の暮らしを私たちの暮らしにどの様に取り入れるべきかを具体的な助言するのが目的だ。

著者は、現代人に座業が増えたことが健康悪化の原因だという。確かに祖先は、座っていたら敵に襲われるか、飢えて死ぬしかない。座ってなどいられないのだ。しかし私は座って原稿を書かなければ、収入が途絶え、飢えて死んでしまう。そこで著者はまず「よく歩く」ことを推奨する。毎日二時間歩き、座業は最長でも一日三時間に制限すること。炭水化物ダイエット、野菜、果物中心の食生活など私の中で「良い」と考えていた習慣も本書を読むと、功罪相半ばすることがよく分かる。
「適切な食べ物を食べ、よく歩き、あとのことはすべて自分の身体にまかせておけばいい」という著者の最後の一言が、どんな医者の言葉よりも、読者の心に重く響くことだろう。(大沢章子訳)
この記事の中でご紹介した本
食と健康の一億年史/亜紀書房
食と健康の一億年史
著 者:スティーブン・レ
出版社:亜紀書房
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