ハッピーバースデー 命かがやく瞬間 書評|青木和雄(金の星社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2017年12月16日 / 新聞掲載日:2017年12月15日(第3219号)

『ハッピーバースデー 命かがやく瞬間』青木和雄・吉富多美作
明治学院大学 望月 みちる

ハッピーバースデー 命かがやく瞬間
著 者:青木和雄、吉富 多美
出版社:金の星社
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「生まなきゃよかった」誕生日に母親に言われたこの一言によって声を失ってしまった少女あすか。彼女は自分自身を取り戻すために母親の実家である祖父母のもとで過ごすこととなり、自然や祖父母の愛に包まれて生活する中で“生きる”とは何か、本当の意味を感じ始める。“誰かのため”ではなく“自分のため”に“自分らしく”生きる。「ちゃんと生きることにしたの」と宣言し新たな歩みをはじめたあすかは母親や兄、そして父にまで変化をもたらした。“生きる”ということがどのようなものなのか自分自身が体現し関わる全ての人に伝えたあすかが、本の世界を超えて私たちにも考え直すきっかけをくれる。

今の社会は多くのことが便利になったおかげで、その多くのことに追われる毎日になった。そんな現代に必要なのは、まさに“生きる”ということ。「これもしなければ」、「あれもしなければ」、と生活しているうちに私たちは「しなければならないこと」に押しつぶされてしまいそうになる。そんな状況は“生きている”と本当に言えるだろうか。

本書の中で私は忘れかけていた大切な3つのことを思い出すことができた。1つ目は自分自身との対話である。「おこるときは、思いっきりおこれ。悲しいときは、思いっきり泣け。がまんなんかするな。」「感情を殺すことは、生きるエネルギーをなくしてしまうことだよ。」と祖父があすかに語るシーンがある。人が感情を表現するのは“生きる”ことに必要不可欠であるが、感情を表現するにはその感情自体を自分自身が感じて、理解して、肯定的に受け入れている必要がある。そのために自分自身との対話が欠かせないのである。

2つ目は他者との素直な対話である。あすか・両親・兄・祖父母・友達・先生、登場する全員が色々な過去や自分と戦っている。その中で自分を100%で受け入れられず、他者との関わりを恐れ、自分の感情にうそをつき偽りの仮面を被っている。偽りの仮面同士の対話でいったい何が生まれるのだろうか。自己喪失感と他者への不信感だけではないだろうか。先に述べた自分自身との対話から見出した自分を素直に相手に伝えることが、相手を素直に受け入れることにもつながっている。本当の自分に素直になることで優しさが生まれ愛が生まれ本当の意味で他者と助け合って生きていけるのである。

3つ目は自然との対話の大切さである。本書では「緑のさざ波がわたるたんぼの海だった。風にそよぐ緑の穂波は、太陽の光を浴びてきらきらと光っている」「西の空に燃えるような夕日が落ちかけていた」といったように自然の描写の鮮やかで美しいことがとても印象的である。「あすかの命も自然のめぐみのひとつなのだろう」という一文があるが、まさにそうなのである。私たちは自然の一部なのだ。だから私たちが自然を感じることを忘れてしまえば心も体もバランスが崩れてしまうのは当然である。忙しいとき人は空を見ることも忘れ、たまに見る空はたとえ晴れていてもくすんだ曇り空に見える。

私はこれらを“生きる”ために大切なこととして本書から感じた。しかしこの全てに共通して必要なのはフーっと息をつく余裕なのではないだろうか。たまには立ち止まってゆっくり空を見上げてほしい。

今日の空は青いですか?
この記事の中でご紹介した本
ハッピーバースデー 命かがやく瞬間/金の星社
ハッピーバースデー 命かがやく瞬間
著 者:青木和雄、吉富 多美
出版社:金の星社
以下のオンライン書店でご購入できます
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