マレ・サカチのたったひとつの贈物 書評|王城 夕紀(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2017年12月23日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

王城 夕紀著『マレ・サカチのたったひとつの贈物』
甲南女子大学 白井 遥

マレ・サカチのたったひとつの贈物
著 者:王城 夕紀
出版社:中央公論新社
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『マレ・サカチのたったひとつの贈物』はSFでもありファンタジーでもある。同時に、主人公が自分の生きる意味について答えをだす、その過程を描いた物語とも言えるだろう。この主人公の坂知稀が、とっても魅力的なのだ。

稀は不思議な人だ。地球上のありとあらゆる場所にいつ跳んでしまうかわからない量子病という病に冒されていながら、苦しんでいる様子はない。唐突な跳躍に振り回されている現状を、楽しんでいるようにも受け入れているようにも見える。独特の感性の持ち主で、彼女のちょっとした一言やコメントにはくすりと笑わせられる。けれど、なんとなく壁を感じてしまう。坂知稀という人物の伝記か記録を読んでいるようで、彼女の真意が見えないのだ。そんな彼女が徐々に自分の気持ちを語るようになる。たとえ量子病でなくても、誰もが理解できるであろう思い。どうすることもできないその思いを抱きながら、それでも稀は考え、選び、生きていく。その姿は真っ直ぐで眩しいけれど、なぜか切ない。そんなことを思っているうちに、彼女の未来が幸せなものであってほしいと思うようになるのだ。

物語を読んでいるときに感じられる、独特の空気感もこの作品の大きな魅力だ。稀の人柄が滲み出たような、穏やかで澄み切った空気。そんな空気に包まれた、静かでぼんやりとした世界は、物語が進むにつれて色鮮やかに忙しなくなっていく。

稀の半生は、数えきれないほどの出会いと別れの繰り返しである。

人は、生きているうちにたくさんの別れを経験する。私たち大学生は、きっと、これから生きていくうえで、今までよりずっと多くの出会いを経験するだろう。同じくらい別れだって経験して、大事なものを失くしていくのだろう。けれど命あるかぎり、どんなに孤独でも私たちは生きていかなければいけない。坂知稀がそうであったように。なぜ別れるのか、彼女のだした答えが読者にとっての正解とは限らない。出会いと別れ、その先をも見据えた稀の答えを読んだとき、私は、この人はなんでそんな難しいことが言えるのだろうと思った。けれど、自分が生きてきた世界をそう感じることが出来るあなたの言葉だから、こんなにも一つ一つが愛おしいのだとも思った。この物語は、漠然とした不安を抱く私たちを、怖くないよと言って落ち着かせてくれるような優しさを持っている。同時に、出会いも別れも何もかも呑み込んで、己の糧にしてやれ、と励ましてくれるような力強さも持っている。

そんな物語の主人公・坂知稀という人物はどんな出会いと別れを体験したのか。彼女が捧げる贈物とは何なのか。その足跡を辿っているうちに、自分だけの新たな一歩に思いを馳せることが出来るようになるだろう。
この記事の中でご紹介した本
マレ・サカチのたったひとつの贈物/中央公論新社
マレ・サカチのたったひとつの贈物
著 者:王城 夕紀
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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