2017年回顧 文芸誌 女性的日本近代文学元年  社会と「内面」との葛藤を迫力ある筆致で描き出す|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月23日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

2017年回顧 文芸誌
女性的日本近代文学元年 
社会と「内面」との葛藤を迫力ある筆致で描き出す

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福島 
 日本の現代文学の最新作を一年間みっちりと読み込むことになったわけですが、どのような徴候を感じられましたか。
馬場 
 テーマやモチーフについては、目立って多かったのが妊活と出産、そしてLGBTQでしょうか。これらを扱った小説が登場しない月はなかったのではないかと思います。作家の性別は問わない感じですが、女性作家が圧倒的に我が身のこととして描いていたなという印象が。あとディアスポラもあり、カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞と連動して話題となっていましたね。そのほかには流行語にもなったポスト真実を描く小説もちらほらと。作家についてみて見ると、還暦以後の男性たちと、総じて女性たちの活躍が際立っていました。
福島 
 小津映画みたいな配置ですね。初老の父親と娘…。
馬場 
 父親側は、松浦寿輝、古井由吉、辻原登、橋本治、大城立裕、三木卓、高井有一(絶筆)、石原慎太郎、金石範ですね。青来有一とか目取真俊とかを含めるにはまだ若いかもしれませんが。筒井康隆は年始から飛ばしていました。
福島 
 松浦は戯作調の非常に質の高い小説をいくつも発表していました。また、橋本、大城、金、青来の作品には、記憶の保存・再生装置たりえる文学の重要な機能がいかされていたように思います。いずれも何か使命感のような気概を感じました。
馬場 
 娘側については、文學界新人賞の沼田真佑「影裏」が芥川賞を電撃受賞したので、そちらに目が行きがちですが、実は今年の新人賞は女性作家の受賞が圧倒的に多かった。群像新人文学賞は上原智美「天袋」と李琴峰「独舞」、文藝賞は若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」、すばる文学賞は山岡ミヤ「光点」、新潮新人賞は佐藤厚志「蛇沼」とW受賞で石井遊佳「百年泥」でしたからね。
最愛の子ども(松浦 理英子)文藝春秋
最愛の子ども
松浦 理英子
文藝春秋
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福島 
 松浦理英子「最愛の子ども」(『文學界』2月号)、笙野頼子、荻野アンナらベテラン勢の活躍もありました。下半期芥川賞候補は今村夏子「星の子」(『トリッパー』春号)、それに温又柔「真ん中の子どもたち」(『すばる』4月号)でしたしね。今村はさらに「白いセーター」(『たべるのがおそい』3号)、「木になった亜沙」(『文學界』10月号)といった佳作も発表しています。他にも、山崎ナオコーラ「父乳」(『すばる』3月号)、木村紅美「夢を泳ぐ少年」(同)、宮崎誉子「水田マリのわだかまり」(『新潮』6月号)、鴻池留衣「ナイス・エイジ」(『新潮』7月号)、村田沙耶香「満潮」(『早稲田文学増刊女性号』)、石田千「母とユニクロ」(『群像』11月号)、ふくだももこ「ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら」(『すばる』12月号)と、女性作家が目立ちました。
馬場 
 彼女たちこそが今、本当の意味で文壇の主流なのかもしれないという気がしています。たとえば『早稲田文学増刊女性号』(9月)が川上未映子を責任編集にむかえての特集号でしたよね。そこで川上が面白い巻頭言を書いています。数年前、どこかの文芸誌が女性特集をやったとき、ある女性作家が、古い、今さらフェミでもないだろうと言っていて、一方川上は、そうした雑誌があるならば読んでみたいと思い、「女性」という言葉がもつ現代での複雑さに配慮した上で「女性をめぐる創作の状況」に棹さした特集にしたと書いています。
福島 
 鈍器になりそうなぐらいに分厚い特集号でした…。
馬場 
 そう、本当にすごい人数の女性が書いていました。近代初の女性作家特集号『文芸倶楽部臨時増刊閨秀小説』が出たのは百年以上前ですが、たとえば当時注目されてきていた樋口一葉ら十数名が書いている。これは男性の書き手が主流のなかで、女性作家が珍しいのと、特集を組めるくらいには数がいるという物理的な意味も重要だったと思います。ですが、今年の『女性号』ではっきりしたのは、そうした文壇の一部を占める女性作家ではなく、むしろそちらが主流だろうということです。そういう意味では男性が主流という文壇は本当の終わりを告げようとしているのかもしれません。
福島 
 柄谷行人が『近代文学の終り』を書いたとき、中上健次が消えたからといって「終り」は言い過ぎだと思ったのですが、たしかに最近の青年・壮年、中堅男性作家の作品には近代的な「内面」が感じられない作品が多い。今思うと「男性的日本近代文学」の終わりという意味で、柄谷の認識は正しかったのかもしれません。ただし、その一方、「内面」を持ち続けている高齢作家たちを継承するかのように、生活環境の変わりつつある女性たちが社会と「内面」との葛藤を迫力ある筆致で描き出している。つまり、これは「女性的日本近代文学」の始まりなのかもしれない。
劇場(又吉 直樹)新潮社
劇場
又吉 直樹
新潮社
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馬場 
 そうですね。若干ながら、還暦前の男性作家でも「内面」を書いている作家もいましたね。私は又吉直樹「劇場」(『新潮』4月号)はよかった。
福島 
 ええ。好みもあるかもしれないけれど、西村賢太も小谷野敦もほとんどぶれてない。
馬場 
 「内面」なし系の作家は読むには読めたけれど、としか言いようのない作品が多かったような。実験的な物語構成とか表現で原稿分量が妙に多いというのも目につきました。それと連動するかは即断できませんが、男性作家についていうと、全員ではないとしても、売れないことにやけにこだわる発言が多いと思います。
福島 
 又吉の美点の一つは小説で金儲けようと考えていなさそうなところです。それだけに、奇を衒わず、好きなように時代遅れにも見える「内面」を追求し、逆に成功をおさめている。作品で食おうと思うと、ネタを探しても無理やりに書かねばならないし、つねに新奇なものを探し続けねばならない。それが裏目に出ているのか…。
馬場 
 彼らが必死に社会にキャッチアップしようとしているのはわかるのですが、むしろ文学は社会を更新するものではないですか…。
福島 
 今年の主役は自己と社会との間にある隙間を見つめる女性作家たちと大ベテラン作家たちでしたが、来年は誰が文学の担い手になるのでしょうね。
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