2017年回顧 ロシア文学 端倪すべからざるロシア文学 ロシア革命百周年にちなむ出版も相次ぐ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月24日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

2017年回顧 ロシア文学
端倪すべからざるロシア文学 ロシア革命百周年にちなむ出版も相次ぐ

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ロシア革命百周年に当たる今年は、革命とソ連の歩みを考える出版が相次いだが、文学とその隣接領域である思想・文化も例外ではなかった。東浩紀編集『ゲンロン』六号は、現代日本の思想状況に他者を導入する目的から、ソ連期の諸潮流も踏まえつつ、「ロシア現代思想」の特集を組んだ。『現代思想』誌一〇月号の特集「ロシア革命100年」では、沼野充義+大石雅彦+乗松亨平の鼎談「生の全面的更新を目指して」が、革命前後からソ連期のロシアの思想・文化の特性を簡明に浮き彫りにしている。岩波書店「ロシア革命とソ連の世紀」シリーズでは、第四巻『人間と文化の革新』(浅岡善治・中嶋毅責任編集)がソ連期の文学・文化・思想を考察。亀山郁夫と沼野充義の対談『ロシア革命100年の謎』(河出書房新社)は、革命の前史から影響までを縦横に語った刺激的なロシア文化論。桑野隆『20世紀ロシア思想史』(岩波書店)は、レーニンやトロツキーからバフチンやロトマン、ソ連崩壊後の思想までを網羅した碩学の力作。
区切りの年は歴史に回帰するまなざしを生むものなのか、今年は評伝の刊行も多かった。ポルドミンスキイ『言葉に命を』(尾家順子訳、群像社)は、十九世紀にロシア初の民衆語に基づく辞典を編んだ文人ダーリの優れた伝記。E・J・ディロン『トルストイ―新しい肖像』(成田富夫訳、成文社)は、十九世紀末にロシアで暮らし、文豪の知己でもあった英国人による伝記と回想だが、トルストイを偉大な博愛主義者として崇拝する傾向とは一線を画し、その虚無を見据えている。大野斉子『メディアと文学』(群像社)は、十九世紀前半の作家ゴーゴリの作中人物がジャーナリズムや公教育を通じて一般読者に浸透していった過程を多面的に論じた秀逸なメディア論。十九世紀末から二〇世紀初頭の所謂「銀の時代」の芸術家列伝である海野弘『ロシアの世紀末』(新曜社)とともに、いわば時代の評伝である。

実証的な研究と並んで、近代ロシア文学をトポスの観点から考察した近藤昌夫他の論集『ロシアの物語空間』(水声社)、『辻原登の「カラマーゾフ」新論』(光文社)、岡林茱萸の詩論集『ロシアの詩を読む』(未知谷)など、内在的な読解にも優れた著作が多かった。

翻訳では、二〇世紀初頭にロシアを舞台にロシア語で書かれたホームズものを選集した『ホームズ、ロシアを駆ける』(久野康彦編訳、国書刊行会)が印象深い。スターリン期の粛清を生き抜いた詩人アフマートヴァが主に死者たちを歌った『レクイエム』(木下晴世編訳、群像社)は、美しい日本語訳と的確な注釈。ここ数年翻訳が続いたグロスマンの前期作品集『トレブリンカの地獄』(赤尾光春・中村唯史訳、みすず書房)は、反体制派と言われるこの作家が、実は社会主義リアリズムから出発したことをよく表している。奈倉有里・諫早勇一訳『マーシェンカ/キング、クイーン、ジャック』は、ロシア語からの初訳を主とする「ナボコフ・コレクション」(新潮社)の第一回配本。「氷三部作」などで若い読者層の支持を受けているソローキンの『テルリア』(松下隆志訳、河出書房新社)や、ソ連の幻想・SF文学史の概説書と思って読むうちに、あり得たかもしれないもう一つの歴史にいつしか迷い込んでしまうカーツの奇書『ソヴェイト・ファンタスチカの歴史』(梅村博昭訳、共和国)なども、なお端倪すべからざるロシア文学の健在を示した。
この記事の中でご紹介した本
言葉に命を ダーリの辞典ができるまで /群像社
言葉に命を ダーリの辞典ができるまで 
著 者:ポルドミンスキイ
出版社:群像社
以下のオンライン書店でご購入できます
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