2017年回顧 児童文学 別の文化が紡ぎ出す物語の大切さ  戦争、LGBTQ、YA小説などの翻訳作品|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月25日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

2017年回顧 児童文学
別の文化が紡ぎ出す物語の大切さ 
戦争、LGBTQ、YA小説などの翻訳作品

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子どもの本に限らず翻訳作品が読まれなくなってきていると言われて久しいですが、別の文化が紡ぎ出す物語たちが私たちの心から抜け落ちてしまうのは、もったいない。今年は翻訳作品を採り上げておきます。

戦争を巡る物語をいくつか。『凍てつく海のむこうに』(ルータ・セペティス:作 野沢佳織:訳 岩波書店)。東プロイセンの住民をソ連軍侵攻から逃すために、ナチス・ドイツが行った「ハンニバル作戦」。彼らが乗船したヴィルヘルム・グストロフ号はバルト海で、ソ連軍の魚雷によって沈没し九千人もの犠牲者を出します。忘れられようとしている記憶を物語が留めます。『わたしがいどんだ戦い1939年』(キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー:作 大作道子:訳 評論社)の舞台はイギリス。足に障害を持つ娘エイダを恥じる母親は、彼女を家に閉じ込めます。空襲の危険が迫り子どもたちは疎開することになったとき、このままでは死んでしまうと思ったエイダは疎開児童に紛れ込みます。辿り着いた村でエイダは生きのびることができるのか? 『キオスク』(ローベルト・ゼーターラー:作 酒寄進一:訳 東宣出版)。十五歳のフランツはキオスクで働くためウィーンに出てきます。時は一九三七年。キオスクの客であったフロイトと知り合ったフランツは、彼に薦められるままに恋をして苦悩を味わいます。純真無垢で一途なフランツと、亡命直前、八〇を過ぎたフロイトの奇妙で暖かい友情の背後で、ナチズムに染められていくウィーンが浮かび上がってきます。

LGBTQを巡る物語もいくつか。『パンツ・プロジェクト』(キャット・クラーク:作 三辺律子:訳 あすなろ書房)。女子はスカート着用を義務付けられている中学校に入ってしまったトランスジェンダーのリヴ。最初に開始したのが女子もズボンを履けるようにする運動です。そこからどう進んで行くかが読みどころ。『九時の月』(デボラ・エリス:作 もりうちすみこ:訳 さ・え・ら書房)。イラン・イラク戦争のさなか、テヘランの名門女子校に通っているファリンは転校生のサディーラに惹かれます。二人は親友として楽しい日々を過ごすのですが、やがてそれは愛情に変わっていきます。が、同性との愛はイランでは死刑に処せられるほど固く禁じられていたのです。『サイモンVS人類平等化計画』(ベッキー・アルバータリ:作 三辺律子:訳 岩波書店)。ゲイのサイモンは、ネットで知り合ったブルーに恋をする。ブルーもサイモンを好きみたいだ。どうやら二人は同じ高校に通っているらしい。けれど、サイモンにはブルーがゲイなのかわからない。どうして異性愛者はカミングアウトしなくてよくて、自分はしなくちゃいけないんだ? 

絵本をいくつか。『この本をかくして』(マーガレット・ワイルド:文 フレヤ・ブラックウッド:絵 アーサー・ビナード:訳 岩崎書店)。図書館に爆弾が落ち、町は焼けてしまう。本を借りていた父親はそれを守り抜こうとするも亡くなってしまう。息子は父親の遺志を引き継ぎ、本を守って行く。記憶を残す本への愛を描くことで、記憶を消し去る戦争を浮かび上がらせます。『キツネとねがいごと』(カトリーン・シェーラー:作 松永美穂:訳 西村書店)。キツネは、死神をだまして死から逃れますが、周りは老いて死んでいく。死をどう受け入れるかを描いています。

YA小説から絵本まで、子どもの本にしてはどれもハードな内容に思われるかもしれませんが、子どもに伝えようとするテーマはどんどん拡がってきているのです。

最後に『こどもってね……』(ベアトリーチェ・アレマーニャ:作 みやがわえりこ:訳 きじとら出版)をご紹介しておきましょう。これは子どもに向かって、子どもについて語っています。読者である子どもが、自己肯定感を得るであろうこの本は、大人読者が子どもに向かい合うための良い入り口にもなっているのです。
この記事の中でご紹介した本
凍てつく海のむこうに/岩波書店
凍てつく海のむこうに
著 者:ルータ・セペティス
翻訳者:野沢 佳織
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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