ジニのパズル 書評|崔 実(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2016年9月2日

生命力溢れるデビュー作 生々しく鮮烈に突き刺さる心の叫び 

ジニのパズル
出版社:講談社
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語り手は、オレゴン州の高校を退学になりかけている少女・ジニ。在日韓国人として日本に生まれた彼女は、日本の小学校に通っていたが、ある日の「歴史」の授業が、ジニとクラスメイトの間に軋轢を生む。中学は自分の意志で、北区十条の朝鮮学校に進学。しかし、そこでも朝鮮語が喋れないことで、クラスから浮いてしまう。

子どもであるジニの目を通して描かれる日本の景色は、あまりに冷たく残酷に思える。「朝鮮人は出ていけ」と演説して回る右翼の車、民族衣装チマ・チョゴリ(朝鮮学校の制服)への好奇の目、警察を名乗る男たちの襲撃。北朝鮮によるテポドン発射のニュースをきっかけに、ジニは日常生活すら脅かされる。〈どうせ国境なんか誰かの落書きだろう。その落書きのせいで、どうしてこんな目に遭わなきゃならない。どうして〉――。彼女の心の叫びが、生々しく鮮烈に突き刺さる。

在日韓国人であることと、女性であることの二重の差別に晒されてしまったジニ。絶望の末、彼女はたったひとりの〈革命〉を決行する。それは、教室に掲げられた金日成・金正日の肖像画を外して、ベランダから投げ捨てる、というもの。彼女は高らかに訴える。〈想像すべきだ。世界中の人間に見えていて、我々生徒に見えていないことは一体なんなのかを〉。その革命宣言は、物語の枠を越えて、読者の胸を突き動かす。

だが結果、革命は彼女と周囲を不幸に陥れる。ジニは短期間精神病院に入院し、ハワイを経てオレゴン州にたどり着く。自分の過去の一端を、ホームステイ先の、ステファニーという絵本作家に打ち明ける。「過去を変えることはできないわ。だから、受け入れるしかないのよ、ジニ」。信頼を寄せるステファニーの言葉に、ジニは「自分が望むものは何か」を初めて知るのだった。救いの予感を感じさせるラストは、ジニの人物像に深みを与えている。

誰かに許されたかった、自分の痛みを認めてほしかった。本書の物語は、そのことを彼女自身が悟るまでの長い旅路に思える。ジニは果たして、自身のかたくなさから脱することができるだろうか……。

本書は、たくさんの矛盾と理不尽を見つめ、真正面から描き出す。それらは解決されることなく、複雑に絡み合い、ジニの心をかき乱す。そんな心理状態を反映するかのように、物語の後半、一〇代特有の強い自意識が、語りの文章から溢れてくる。それらは読者に、向き合いたくない過去を喚起させるだろう。

実のところ、文章にもう少し抑制が加われば、さらに多くの人に受け入れられる作品になったのでは、という思いも抱く。だが、そんな懸念を跳ね返す魅力が本書には詰まっている。誰にも止められない疾走感。荒々しく闘うジニの勇姿を、私たちは熱く見守らずにはいられない。

朝鮮学校を舞台に展開するジニの青春、朝鮮語を巡って巻き起こる事件の場面なども、人物が生き生きと動き出すようで、素晴らしい。特に、クラスメイトの男子、ジェファンとの初恋の場面は、瑞々しく自然な文体で切り取られている。

著者の崔実氏は、在日韓国人三世の新人作家。今後も、彼女の立場だからこそ見える「日本」、女性の在り方について、深く切り込んでいってほしい。また、少年ジェファンを語り手に、より広い層に訴える青春小説を読んでみたい。この生命力溢れるデビュー作から、作品世界がどのように展開していくのか、とても楽しみだ。
この記事の中でご紹介した本
ジニのパズル/講談社
ジニのパズル
著 者:崔 実
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年9月2日 新聞掲載(第3155号)
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