2017年回顧 ミステリー 迷わずおすすめしたいベスト1 月村了衛『機龍警察 狼眼殺手』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月26日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

2017年回顧 ミステリー
迷わずおすすめしたいベスト1 月村了衛『機龍警察 狼眼殺手』

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この一年間で、最も優れていると感じた国産ミステリーは、月村了衛の『機龍警察 狼眼殺手』(早川書房)だった。

人型ロボットが兵器として活用される近未来を舞台にした警察小説シリーズの最新作だが、本作ではシリーズの特色とも言うべきメカアクションを封印し、複雑にして濃密なストーリーで勝負してみせた。予想外にして心を締めつける展開はシリーズ随一の出来栄え。今年のベストとして迷わずおすすめしたい。

ほか、印象に残った作家としては柚月裕子がいる。コンゲームものの連作短編集『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』(講談社)は、著者らしからぬ軽妙な一冊。元弁護士とその助手が、詐欺を相手に知略をめぐらせる物語だ。一方、将棋の世界を題材にした『盤上の向日葵』(中央公論新社)は著者らしい重厚な作品。地道な捜査と天才棋士の辛い生い立ちを、多様な人間模様を織り込んで描き、意外な結末へと着地する。

もう一人挙げるならば深町秋生だろう。『地獄の犬たち』(KADOKAWA)では暴力団に潜入する捜査官を、『死は望むところ』(実業之日本社文庫)では武装犯罪組織と警察との血生臭い死闘を、『ドッグ・メーカー』(新潮文庫)では巨悪を相手に手段を選ばない暗闘を描いてみせた。これらとは毛色は異なるが、シングルマザーの探偵(ないし便利屋)の活躍を描いた、昨年暮れの『探偵は女手ひとつ』(光文社)も忘れがたい。
その柚月裕子、深町秋生を輩出したのが、「このミステリーがすごい!」大賞。第15回の受賞作が、岩木一麻『がん消滅の罠 完全寛解の謎』(宝島社)だ。治る見込みのなかった癌が消えてしまう謎を扱った、ユニークな展開を見せる医療ミステリーである。
屍人荘の殺人(今村 昌弘)東京創元社
屍人荘の殺人
今村 昌弘
東京創元社
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他の新人賞受賞作では、鮎川哲也賞を受賞した今村昌弘『屍人荘の殺人』(東京創元社)のインパクトも強烈だ。途方もない異常事態で起きる密室殺人。予備知識をなるべく仕入れず、真っ白な状態で読みたい一冊だ。

同じ本格ミステリーの分野では、ベテラン有栖川有栖の『狩人の悪夢』(KADOKAWA)が手堅く読ませる。がっちりとロジックを組み立てて、犯人を追い詰めるかけひきが強い緊迫感を生み出している。
海外作品では、まずケイト・モートン『湖畔荘』(東京創元社)を紹介しておきたい。70年前に起きた未解決の事件を中心に据えて、過去を探る女性刑事と、それぞれに秘密を抱えた関係者たちの物語が絡み合う。入り組んだ構成でありながら、物語の力でぐいぐいと読ませる小説である。

陳浩基『13・67』(文藝春秋)は、香港を舞台にした本格ミステリー。連作形式で、二〇一三年から一九六七年へと向かって過去へと遡る形で各編が配されている。特異な形式の香港警察年代記として、また強烈な驚きの仕掛けられた謎解きものとして楽しめる。

凝った叙述が驚きと感動をもたらすといえば、エリザベス・ウェインの『コードネーム・ヴェリティ』(創元推理文庫)も鮮烈な作品だ。第二次大戦下、ドイツ軍の捕虜となった英国の女性工作員の手記として幕を開ける本書は、みずみずしさと戦争の苛烈さが同居した物語だ。

典型的なミステリーからはだいぶ離れてしまうが、ボストン・テランの『その犬の歩むところ』(文春文庫)も心を揺さぶる小説として挙げておきたい。アメリカの各地を旅することになった犬と、その犬と旅路を共にした人々が描かれる。戦乱や災害に傷ついた人々と、彼らに寄り添う犬の姿が記憶に残る。

ほか、スパイ小説の分野にも目を向けておこう。リストラ部屋に放り込まれた窓際スパイたちの奮闘を描くミック・ヘロンの『放たれた虎』(ハヤカワ文庫NV)、ベトナム戦争の「その後」を描くヴィエト・タン・ウェン『シンパサイザー』(ハヤカワ・ミステリ文庫)など、注目すべき作品が相次いで訳された。

そんな中、年末も近づく頃に刊行されたのが、大御所ジョン・ル・カレの『スパイたちの遺産』(早川書房)だ。冷戦時代に書かれたスパイ小説の名作『寒い国から帰ってきたスパイ』などの後日談であり、昔からのファンには見逃せない一冊。
ル・カレの自伝『地下道の鳩』(早川書房)も今年邦訳が刊行された。取材でのできごと、自身の生い立ちなどを語っていて、こちらも興味深い内容だ。
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