2017年回顧 詩 乗り越えようとする何かを鋭角に見つめる、眼の力|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月26日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

2017年回顧 詩
乗り越えようとする何かを鋭角に見つめる、眼の力

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本年も数多くの刊行がなされた。心の寄る辺を見い出せない現代において、乗り越えようとする何かを鋭角に見つめようとするいくつかの詩集に、書き手と読み手の内面を映そうとする新しい鏡を見つけた気がした。本を開くと眼の力を感じた。挙げてみたい。

藤井貞和は戦争や人権、教育、近年は震災の問題などについて、旺盛な書きぶりで向き合ってきた。『美しい小弓を持って』(思潮社)。「葉裏のキーボードを、/かぜがさわります。/なんだか通信したそうにして、/メールがやってくる」。詩人の眼と心の窓に自然に送られてくる記号、信号…。詩に宿る藤井の呼吸が、さらなる新しいそれを誘っていると感じた。前から後ろから読んでも同じ音である回文詩も数多く収められていて、何度か読み返すと言葉に出来ない精神の痛みが見えてくるようで、象徴的でユニークな感覚があった。叙情と実験の精神。その先に対峙しようとする社会と心の影がはっきりと見えた。
見えない涙(若松 英輔)亜紀書房
見えない涙
若松 英輔
亜紀書房
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東日本大震災にて津波が押し寄せる際に、高台へと避難を呼びかけて巻き込まれてしまった若い女性職員へと捧げた詩が表題作である高良留美子の『その声はいまも』(思潮社)、神戸の詩人の安水稔和の詩集『甦る』(編集工房ノア)、若松英輔『見えない涙』(亜紀書房)などのそれぞれに、失われた季節への心の傷みに向けた視線と言葉の光を感じた。
米国の詩人であり翻訳者であるジェフリー・アングルスの『わたしの日付変更線』に、母国語ではなく日本語で書かれた詩による新しい越境の言の葉と根とが見えた。無駄なものに日々席巻されつつあるからこそ「無駄な言葉を省く作業は楽しい」と語る甘里君香の詩集『ロンリーアマテラス』、宇宙の深遠な暗闇にこちらの心も吸いこまれていくかのような詩などが印象的な細田傳造の『かまきりすいこまれた』(三冊とも思潮社)、出産の瞬間を回想した激しく鮮やかな詩句が響き渡る青木由弥子の詩集『星を産んだ日』(土曜美術社出版販売)などに、日常に息づいている詩の源を見つめようとするまなざしを感じた。

他に松尾真由美『花章―ディヴェルティメント』、四元康祐『小説』、岡本啓の『絶景ノート』、吉田博子『母樹』、暁方ミセイの『魔法の丘』、近藤洋太『SSS』、中堂けいこ『ニューシーズンズ』、萩野なつみ『遠葬』(八冊とも思潮社)、近藤久也『リバーサイド』(ぶーわー舎)、岡田哲也『花もやい』(花乱社)、そして渾身の力作の野村喜和夫『デジャヴュ街道』、広瀬大志『魔笛』、松本秀文『「猫」と云うトンネル』(三冊とも思潮社)の果敢さに惹かれた。尾形亀之助のアンソロジー『美しい街』(夏葉社)、矢沢宰のアンソロジー『矢沢宰詩集―光る砂漠』(思潮社)、佐々木幹郎『中原中也 沈黙の音楽』(岩波書店)など。時間軸を遡るようにしてかつての日本の詩や風景や詩人の生き方などを温ねて、未来を語ろうとする眼の強さと新鮮さがそれぞれに感じられた。
この記事の中でご紹介した本
美しい小弓を持って/思潮社
美しい小弓を持って
著 者:藤井 貞和
出版社:思潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
見えない涙/亜紀書房
見えない涙
著 者:若松 英輔
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
わたしの日付変更線/思潮社
わたしの日付変更線
著 者:ジェフリー・アングルス
出版社:思潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
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