2017年回顧 音楽 時代に翻弄される音楽  中央と周縁との葛藤から生まれる音楽|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年12月27日 / 新聞掲載日:2017年12月22日(第3220号)

2017年回顧 音楽
時代に翻弄される音楽 
中央と周縁との葛藤から生まれる音楽

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今年も大手音楽系出版社がほとんど振るわない中(守りの姿勢だけでは却って逆効果だろうに)、小規模あるいは一般書の出版社から面白い本が出てきたのは大収穫。『ホワイトハウスのピアニスト』(ナイジェル・クリフ著、松村哲哉訳、白水社)は、東西冷戦下で一躍有名になるも、当の冷戦や商業主義に翻弄されスランプへと陥ったピアニスト、クライバーンを扱った大著の評伝。アーティストが時代に翻弄されるというテーマでは、『いまモリッシーを聴くということ』(ブレディみかこ著、Pヴァイン)は、活動中の人物を扱ったという点でよりリアルだ。サッチャリズムが跋扈する中、それに対するプロテストを引っ提げて登場したモリッシーが、その後のイギリス社会でいかに翻弄され、いかに活動を繰り広げていったのか。中央と周縁との葛藤から生まれる音楽の現場ということで、『沖縄三線秘境の旅』(日比野宏、ヤマハミュージックメディア)には、本土の人間として沖縄に肉薄しようとした著者だからこそ書きえた熱さが滾っている。中央の横暴さ、ひいては暴力を音楽という切り口から描くという姿勢において、『音楽と洗脳』(苫米地英人著)は強烈。私たちが聴いて美しいと思っている音は、実は中央のねつ造によって無理矢理そう信じ込まされているだけであり、それがアナログ録音からデジタル録音への移行においても起こった出来事に至るまで、付属のCDとともに証明してくれる。その一方で、アナログからデジタルへの変遷がファンにとって夢の時代だったことを語り尽くしたのが『僕の音盤青春期 花の東京編』(牧野良幸絵と文、音楽出版社)。高度経済成長の頂点に差し掛かった日本において、音楽業界全体が活気づいていた頃の東京の高揚感が、著者自身の体験とともに鮮やかに描かれる。敗戦から復興、そして高度経済成長へという日本の歩みと音楽との関係を考えるとき、『奇跡の歌』(門田隆将著、小学館)も重要な1冊となろう。ペギー葉山からの聞き書きを基に、悲惨な戦時下の音楽が、戦後にあって希望の歌へと変容してゆく様が、一時代を画した歌い手を通じて甦る。音楽(しかも黙って聞いているのがよしとされるクラシック音楽)とダンスとの切っても切れない歴史を解き明かすのが『ダンスと音楽』(クレール・パオラッチ著、西久美子訳、アルテスパブリッシング)。音楽の中に秘められた身体性という意外な盲点に着目しながら、両者の関係が織りなす政治性に至るまで、新たな視点からヨーロッパの音楽文化史を捉え直す。『ラップは何を映しているのか』(大和田俊之・磯部涼・吉田雅史著、毎日新聞出版)は、ラップの変遷のみならず、日本語ラップに具わった特殊性と問題点を炙り出す鼎談形式の1冊。最後にラップの土着化と笑いについての指摘があるのが特に印象に残った。そして笑いを通じ、どんどん生きにくくなる世の中をゆるーく生き抜くための方法を伝授してくれるのが、『思い出のバカレコード大全』(オークラ出版)。
この記事の中でご紹介した本
ホワイトハウスのピアニスト ヴァン・クライバーンと冷戦/白水社
ホワイトハウスのピアニスト ヴァン・クライバーンと冷戦
著 者:ナイジェル・クリフ
翻訳者:松村 哲哉
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
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