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八重山暮らし
更新日:2018年1月9日 / 新聞掲載日:2018年1月5日(第3221号)

八重山暮らし(23)

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正月、雪ではなく蝶が舞う。オオゴマダラは貴婦人のように優雅だ。
(撮影=大森一也)
正月の朝に…


蝶を追いかけ娘は走る。陽は高く、南からの風はしっとりとあたたかい。白い砂浜が見えると坂を下る。サンダルの素足が砂にまみれていく。娘は後ろを振り向き、声をあげる。海へと入り、澄んだ水を蹴る…。

常夏の島で、新しい年の訪れを慶ぶ。すると、きまって、険のある表情とくぐもった声がよみがえる。
「正月の朝に、おんなが外を出歩くもんではない…」

西表島に小さな家を造り、迎えた新春の朝だった。ご近所に挨拶をと張り切って出掛けた矢先、したたか叱られたのだ。「元旦は、家に最初に入るのは、おとこと決まっておる」。寝巻姿のまま現れた染織の師は諄々と諭す。初めの来訪者によって、その家の新年の運勢が決まるという。とてつもなく、うろたえた。以来、元日は朝寝を決め込む…。
「ねぇ うみのみず、ちょっと つめたーい」

島の正月は、天気に恵まれると扇風機が必要なくらい暑くなる。娘は遠浅の海をずんずん歩いている。家から外へと解き放たれ、嬉しくってたまらない。

あの日、なぜ、おんなだけが…、と心に不満がもたげることはなかった。正月に汗をぬぐいつつ扇風機を取り出すように、島での流儀を否応なしに習い覚えた。暮らしに添う生身の感覚は、いっそ清やかだった。

まっさらな風が心地よい。珊瑚礁に寄せる波が白く泡立つ。透き通った海が微かに瑠璃色を帯びていく。
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