ユニクロ潜入一年 書評|横田 増生(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年1月6日 / 新聞掲載日:2018年1月5日(第3221号)

潜入取材の有効性をあざやかに示す 
現場で働かなければわからないこと

ユニクロ潜入一年
著 者:横田 増生
出版社:文藝春秋
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この本はすごい。「ユニクロはブラック企業なのではないか?」という世間の風評はたくさんあったが、内部の実態はよくわからず、ユニクロ側の説明への有効な反論は部分的なものにとどまっていた。ところが、著者の横田氏はまさに潜入してユニクロの労働実態がどうなっているのかをユニクロの店舗で働きながら取材したのである。

しかも、ユニクロ側に身元がばれないように、形式的に離婚したうえで、すぐに妻と「再婚」して妻の名字に変えたという手の込んだ手法まで駆使した。徹底している。いや、私は、ここまで読んで、チリの独裁政権批判のために髪の毛を抜き変装してチリに潜入した、ミゲル・リティン監督の映画『戒厳令下チリ潜入記』(同名の著書が岩波新書に所収)を思い出しながらドキドキしていた。そして、痛快さを同時にもった。

著者は、氏名を変えて、パート労働者としてユニクロで働き、そこでの労働を詳細に描写している。商品を袋から出すときの現場での工夫や、レジの研修でのむつかしさなど、現場で働かなければ絶対にわからないことが詳しく書かれている。現場での労働のあり方と人間関係とがいかに関わっているのか、店長や他の正社員、地域限定正社員、パート従業員がどのように組み合わさって現場がまわっているのかがよくわかる。

本著は、それだけでも興味深い読み物なのだが、さらに、ユニクロの柳井正会長の社内会議での指示を重ね合わせて内部の業務がいかに混乱させられているかを描写しているところはきわめて興味深い。ワンマン経営者の柳井会長は、グローバルに展開する大企業の経営者とは思えないほどに、事細かに現場に口出しをしている。たとえば、ユニクロの特売セールの景品の数量などについてもである。それが当たっていることであれば、「さすがに有能な経営者だ」という話になるのだろうが、現場の実態からすると、どうにも空振りが多いということが本著では繰り返し指摘されている。柳井会長の事細かな指示に右往左往する現場の店長たちの姿は、「ブラック企業」で働く店長たちの姿とぴったりと重なってしまう。

ユニクロが「ブラック企業」批判をきっかけに導入したと柳井会長自身が発言している「地域限定正社員」も、その実態はけしてバラ色のものではないことが明らかにされている。「限定正社員」制度が、労働者の働き方の改善につながるかのような議論が一部で流布されているが、「限定正社員」制度は労使の力関係によっていくらでもひどいものになりうることが実証されている。

さらに、香港の人権NGO「SACOM」による、ユニクロ商品を生産している中国の工場への潜入調査に関しても香港に出向いて取材されている。著者の潜入取材は、このNGOの潜入調査に触発されたそうだ。このNGOの潜入調査によって、ユニクロの中国における委託先企業の労働環境の劣悪さが明らかとなり、ユニクロは委託先企業名をようやく公表することとなった。小さなNGOがここまでできるのに、日本の労働運動が果たすべき役割を果たしていないのではないかとも思った。

「ブラック企業」の内部で何が起こっているかは、内部告発があるか、もしくは、潜入調査をしないとわからない。本著は、潜入調査、潜入取材の有効性をあざやかに示したルポである。大手メディアも、日本の労働運動/市民運動も、今後、潜入調査や潜入取材を旺盛にやっていくことが求められていることを実感した。
この記事の中でご紹介した本
ユニクロ潜入一年/文藝春秋
ユニクロ潜入一年
著 者:横田 増生
出版社:文藝春秋
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