対談=臼杵陽×早尾貴紀 「大災厄(ナクバ)」は過去ではない イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年1月12日

対談=臼杵陽×早尾貴紀
「大災厄(ナクバ)」は過去ではない
イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題

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二〇一七年末、イラン・パぺ著『パレスチナの民族浄化イスラエル建国の暴力』(田浪亜央江・早尾貴紀訳、法政大学出版局)が刊行された。一九四八年のイスラエル国建国前後に、いかに先住のパレスチナ住民が、虐殺・追放を受けたのか、パレスチナ社会が壊滅させられたのか(パレスチナ人はこれをアラビア語で「大災厄(ナクバ)」と呼ぶ)を、資料を元に具体的に記し、この出来事が「民族浄化」という犯罪であるとの視点から、緻密に解き明かされた本である。

そして二〇一七年一二月六日、アメリカのトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都として承認すると発言。パレスチナでは抗議行動が拡大し、国際社会に緊張が広がることとなった。こうした現状を受け、パレスチナ問題の第一人者である日本女子大学教授の臼杵陽氏と、本書の訳者の一人である東京経済大学准教授の早尾氏に対談をお願いした。本書を中心に歴史を掘り下げ、現在進行形の問題についても語っていただいた。 (編集部)
第1回
トランプ米大統領のエルサレム首都承認発言

早尾 貴紀氏
早尾 
 去る十二月六日、世界に衝撃が走りました。アメリカのトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都として承認し、アメリカ大使館をエルサレムに移転すると演説したためです。イスラエルは、第一次中東戦争で占領した西エルサレムを、一九五〇年に自国の首都だと宣言しましたが、それはパレスチナ人だけでなく、周辺諸国のアラブ人にとっても、あるいは国連や欧州各国にとっても、容認できないことでした。
臼杵 
 エルサレムというのは非常に特殊な場所ですよね。今回のトランプ氏の発言は、既成事実として、イスラエル国の宣言を追認することになります。
早尾 
 一九四七年に国連が出したパレスチナ分割決議案では、エルサレムは国際管理地とされました。翌四八年のイスラエル独立宣言を挟み、四九年の第一次中東戦争の休戦合意で、旧市街のギリギリ手前の西エルサレムまでがイスラエル領となります。これが第一段階です。一九六七年の第三次中東戦争では、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地域も、全てイスラエルがとりました。そしてイスラエルは、東西エルサレムは統合された、と主張しているわけです。

東エルサレムの旧市街には「嘆きの壁」といわれるかつてのユダヤ教神殿の城壁があり、ここを含めて手中に収められたことが、イスラエルにとって重要でした。ただ国際社会としては、第三次中東戦争という武力で併合した領土を、首都とは認められない。ということで、世界中の大使館は、エルサレムではなくテルアビブに存在します。その状況を変えることは、単純には占領地に関する国際条約に違反するという面もありますし、即紛争が起こる可能性も秘めたより複雑な事情も孕みます。そういう状況の中で、なぜ今回のエルサレム承認発言が出てしまったのか。
臼杵 
 これは、元はアメリカの国内問題に過ぎません。一九九五年にアメリカ議会で、大使館をテルアビブからエルサレムに移すという決議が可決しているんです。
早尾 
 九九年までに大使館を移すこととなっていましたが、クリントン、ブッシュ、オバマの歴代大統領は拒否権を発動し、動かさなかった。
臼杵 
 おっしゃる通り、歴代の大統領は、アメリカ大使館をテルアビブに置いたまま、国内法としては可決していたエルサレム移転問題を、拒否権を発動することで原状維持していました。クリントンの場合は、夫人がこの問題に積極的で、当時西エルサレムに土地を購入しています。が、そのまま凍結されています。そうした流れの上で、今回トランプが承認した、ということになります。

エルサレムに大使館を移せば、東西統一エルサレムをイスラエルの首都とすることも認めることになり、第三次中東戦争でイスラエルが占領した、東エルサレムを含むヨルダン川西岸をイスラエルの国土として認めることにもなります。これはれっきとした国際法違反です。しかし今回、どこまで何を考えての発言だったのか、真意は分かりませんが、おそらく単なる国内問題の延長としてしか考えていないでしょう。つまり、シオニスト・ロビーや、福音派のキリスト教徒たちの支持を得るという、自身の大統領としての延命策のみで、国内問題を国際紛争化してしまっているという、非常にまずい状況なんです。
早尾 
 アメリカ国内で四分の一を占めるキリスト教原理主義が、共和党の強力な支持基盤をなしている。一方で伝統的に民主党支持が大半のユダヤ人の中で、最近は共和党支持のユダヤ・ロビーも増えていて、この二つのグループが、トランプ政権の支持母体だと。

ただトランプ氏の宣言、あるいは福音派の原理主義者やユダヤ・ロビーの支持は、自分たちの利害や理念に基づくものであり、イスラエル国家に住む市民の状況とは無関係に、ただただ緊張と不安を持ち込んでしまっている状況です。
臼杵 
 そもそも福音派キリスト教の考え方は、ユダヤ教と矛盾します。旧約聖書に書かれている預言は、ユダヤ人たちは祖国に帰り、国を再建すればメシアの再臨する日が来ると。ところが新約聖書における預言では、イエス・キリストが再臨するのですから、ユダヤ国家でなくキリスト教国家になってしまう。でもイスラエルのネタニヤフ首相は、矛盾を分かっていて、アメリカの政治を利用しています。なぜなら今この瞬間、彼らがイスラエルを支持してくれているからです。
早尾 
 エルサレムという土地の特殊性について、もう少し、パレスチナの歴史と、イスラエルの建国史を振り返る必要がありそうですね。臼杵さんから見て、エルサレムを巡る問題の核心はどこにあるのでしょうか。
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この記事の中でご紹介した本
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力/法政大学出版局
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力
著 者:イラン・パペ
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月12日 新聞掲載(第3222号)
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