対談=臼杵陽×早尾貴紀 「大災厄(ナクバ)」は過去ではない イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年1月12日 / 新聞掲載日:2018年1月12日(第3222号)

対談=臼杵陽×早尾貴紀
「大災厄(ナクバ)」は過去ではない
イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題

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第5回
パレスチナ問題を考える現代的な意義

早尾 
 しかしパぺ氏が意図した方向で、前向きに「民族浄化」という言葉を我々が生かしていくとすれば、例えば昨今の統一エルサレムの承認問題も、パレスチナのユダヤ化の流れに位置付けて考えを深めることができると思うんです。

エルサレムでは今もなお、露骨なユダヤ化が行われています。アメリカによるエルサレムの首都承認問題は、とんでもない話ではありますが、これを契機に、パレスチナ人に対する継続した民族浄化の問題を、捉え返していくべきではないかと思います。その文脈で、パぺの仕事を現在に接続し、歴史を通して現在起きていることの意味を再認識するべきではないかと。
臼杵 
 まさに、エルサレム問題は、新たな段階に入ったということになると思います。国際的な状況を睨んだ発言ではなかったとはいえ、今後イスラエルがアメリカ国内の問題として機能し始めると、諸外国が何をいおうとどうにもならない状況にもなり得ます。当然現地における反発も広がるでしょう。昨年五月、トランプ氏はサウジアラビア、エルサレム、イスラエル、パレスチナ、教皇庁を訪問して、三つの一神教の人びとと中東和平を作り上げよう、というスタンスを見せましたが、今回の動きでは一方的にイスラエルに肩入れすることになるので、どんな和平努力も難しい。
早尾 
 これは歴史的な後退ともいえる気がします。普通、国家とは住民のためのものですが、イスラエルは、「世界のユダヤ人にとっての祖国」とされ、世界シオニスト機構が、イスラエル国内の内政に対し発言し、影響力も持っています。ところが九〇年代以降、国外のユダヤ人より、国内に住むユダヤ人の国として民主的に機能すべき、という論争が起こりました。国内のアラブ人の声には一向に耳を傾けられる気配はありませんが、一つの前進ではあったと思います。そうした動きをも、今回の発言は打消しかねないと思うのです。
臼杵 
 イスラエル人が国外に出ていく、イスラエル人ディアスポラと呼ばれる現象も目立っているようですね。イスラエルで生まれたユダヤ人たちは、イスラエリー(イスラエル人)と自己認識する人が増えていて、国政が悪くなればなるほど、イスラエルの在り方に批判的なイスラエリーが、どんどん国外に移住していく。これはバルフォア宣言以降、ユダヤ人移民を受け入れ、パレスチナ人を排外することで、ユダヤ化を進めてきたイスラエル国家にとって、危機ですし、皮肉な事態です。
早尾 
 イスラエル人ディアスポラについていくつかの機関の推計を見ると、イスラエルのユダヤ系の人口約七〇〇万人のうちの、一割弱、最大で約六〇万人もがイスラエルの国籍を保有したまま国外在住だということです。

それから、イスラエルは、東西エルサレムを統合したといっていますが、東エルサレムに住むアラブ人を国民とは認めていないんですよね。つまり彼らは無国籍なわけです。東エルサレムの土地は欲しいけれど、非ユダヤの人口は増やしたくないと。パレスチナ人が現在もなお、そうした状況に置かれているということは、もっと一般に知られるべきことだと思います。パレスチナ人の人口を抑制し、ユダヤ人の人口比を高めるため、書類上の難癖をつけての国外追放や家屋破壊も、最近いっそう目に余るようです。ミクロな形での追放政策は、依然として継続しているといえます。しかし何もかもご都合主義でまかり通っているのを、国際社会は容認してしまっている。それがトランプ政権の今回の政策で、既成事実として追認されていく流れにあるということです。
臼杵 
 イスラエル・アラブと呼ばれる、イスラエル国籍を持ったアラブ(パレスチナ)人は二〇%ほどいるわけですが、この人々が、イスラエル側からすると、政策の障害になりますよね。だからこそ、国内で反イスラエルデモが起これば、銃で平然と撃ってでも徹底的につぶす。自国民であるパレスチナ人を、撃つわけです。敵対行為を名目として、イスラエル国籍を合法的に剥奪できるようにもなってしまいました。恣意的に国籍剥奪できるようになったら、いよいよイスラエル国内の残るパレスチナ人の存在を抹消していく方向に進みかねない。脅威です。民族浄化は決して、七〇年前の話ではなく、現在のイスラエル国内の問題として続いています。
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この記事の中でご紹介した本
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力/法政大学出版局
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力
著 者:イラン・パペ
出版社:法政大学出版局
「パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力」は以下からご購入できます
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