対談=臼杵陽×早尾貴紀 「大災厄(ナクバ)」は過去ではない イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年1月12日 / 新聞掲載日:2018年1月12日(第3222号)

対談=臼杵陽×早尾貴紀
「大災厄(ナクバ)」は過去ではない
イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』と米・エルサレム首都承認問題

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第6回
分断して統治せよ、作られた人種主義

早尾 
 しかしそもそも、アラブ文化圏の中に、ユダヤ教、キリスト教、イスラームと三つの宗教があって、ムスリムとキリスト教徒はアラブ人で、ユダヤ教徒だけがアラブ人ではない、というのはおかしな話ですよね。そもそも分類のカテゴリーがまったくことなるのだから、宗教で人種を分断することは、本来は無理がある。東欧から中東、さらにエチオピアにまでユダヤ教徒がいて、同じ「ユダヤ人種」だなんてことが言えるはずがない。しかし、できないものを暴力的に線引きして、分断するのが人種主義なんですよね。
臼杵 
 ミズラヒームというオリエント系ユダヤ人がいますが、「ミズラハ」とは東を意味し、彼らは伝統的なアラブ世界に出自を持っています。キッパというユダヤの民族衣装である帽子のようなものをつけていますが、顔かたちだけでは、アラブ人かユダヤ人か、分からないというのが現実です。その逆もしかりで、エルサレムに住むパレスチナ人の友人は、比較的白い肌なので、占領地にも顔パスで入れてしまうそうです。
早尾 
 ヨーロッパ系ユダヤ教徒が支配層である社会の中では、アラブ系のユダヤ教徒は、二級市民として劣等感を植え付けられています。そのためにとりわけ自分のことを「ユダヤ人」であると規定し、マジョリティの側に同化しよう、上昇しようという心理が、強い反アラブ感情を引き起こすことがあるのではないでしょうか。自分の中にアラブ的要素があるからこそ、ダブル・アイデンティティゆえに、それをできるだけ払拭しようとして、反アラブ、反パレスチナ感情が生まれるということがある気がします。
臼杵 
 そうかもしれません。この本の中でも強調されていますが、ドゥルーズやチェルケス、ベドウィンといったマイノリティの「民族」は、もとはアラブ人ですが、イスラエルに協力し、兵役の義務を負うことで、立場が引き上げられることがありますから。
早尾 
 「分断して統治せよ」といいますが、アラブ人を弱体化させ、効率的に統治するためには、その団結を崩すことが、第一なんですよね。ドゥルーズやチェルケス、ベドウィン、それからクリスチャン。そうしたマイノリティは、徴兵の代わりに得られる権利がある。逆にそれ以外の大半のムスリムは、徴兵がない代わりに権利も与えられない。例えば奨学金やローン、公務員就職や大企業就職枠など、生活の安定に密接にかかわる権利です。

一方、ドゥルーズやベドウィンは、アラブ人社会に通じているので、占領地で最前線に立たせたり、アラビア語ができるので尋問をさせたり、といった利用価値があります。その代償としてユダヤ人の支配層に近いポジションを与えられる。ですから、一般のムスリムからは裏切りと見られたりもする。支配層は格差を利用し、分断統治を行うということです。そして様々な種類の緊張と不満が、イスラエルには燻っていると想像されます。
臼杵 
 この問題は今後どうなっていくのか。
早尾 
 国連は、緊急特別会合をもって、認定の撤回をアメリカに求める決議案を採択しましたね。
臼杵 
 十二月二十一日に採択されました。ただ常任理事国のアメリカは拒否権を発動していますし、イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ氏に感謝の意を表し、国連の投票結果を拒否すると。
早尾 
 イギリス、フランスは、アメリカは国連を無視していると、はっきりと不快感を表明し、日本政府はノーコメント。圧倒的多数で決議案は採択されていますが、投票を棄権した国や、採択に不参加の国もありました。
臼杵 
 トランプ氏は、決議案に賛成する国への支援は停止する、などの警告もしていましたね。この問題が今後どう展開するのか、目を離せません。(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力/法政大学出版局
パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力
著 者:イラン・パペ
出版社:法政大学出版局
「パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力」は以下からご購入できます
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