藪内亮輔「ラブ」 無化、し無化し 或るところに惡 じいさんと汚ばあさんが酢 んでゐました幸せ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2018年1月16日 / 新聞掲載日:2018年1月12日(第3222号)

無化、し無化し 或るところに惡 じいさんと汚ばあさんが酢 んでゐました幸せ
藪内亮輔「ラブ」

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日本人なら誰もが暗唱できるだろう「桃太郎」の冒頭をそっくりそのまま引用しているのだが、ところどころ誤変換のように間違った漢字があてられている。今の変換ソフトなら高性能だからこんな誤変換はやらかさないだろうし、あてられている漢字が不穏で悪意まみれだから、これは意図的にやっていることである。「桃太郎」の陳腐な勧善懲悪ストーリーと、言葉が固定されて死んでしまった決まり文句へ呪詛をぶつけ、予定調和を崩壊させようという企みだ。

そして気になるのは最後に付け足しのように置かれた「幸せ」。世の中には「住んでいました」の後に「幸せに毎日暮らしていましたが……」のような文が続いてゆくバージョンがあるのかもしれない。なんにせよここでは「死あはせ」みたいな当て字を用いず、そして字余りで寸詰まり感を持たせながら途中で文をぶった切っている。「幸せ」そのものがここで永遠の中断をくらっていることを表現しているのだろう。単なる当て字よりも一層、ハイレベルな性格の悪さが出ている気がしなくもない。

「ラブ」というタイトルに反して、「憎む」「死ぬ」「殺す」という動詞ばかりが出てくる連作のうちの一首である。決まり文句ばかりに満ちた生ぬるい予定調和の世界への呪いの爆弾が、短歌のかたちをとっている。しかしそんな悪意すらもポップに表現してしまえるのは、たとえばこんなふうにパロディなどを使いこなすユーモアセンスのたまものだろう。
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