第百五十五回 芥川賞直木賞贈賞式|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年9月9日 / 新聞掲載日:2016年9月9日(第3156号)

第百五十五回 芥川賞直木賞贈賞式

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8月26日、東京都内で第百五十五回芥川賞と直木賞の贈賞式が開催され、「コンビニ人間」(文學界六月号)で芥川賞を受賞した村田沙耶香氏と『海の見える理髪店』(集英社)で直木賞を受賞した荻原浩氏の二人に賞が贈られた。

選考委員代表の挨拶で芥川賞の奥泉光氏は「今回の候補作はどれも非常に力があり、非常に将来性を感じさせる若い人の作品も含まれて粒揃いだったと言っていいと思う。選考会では混戦になるのかなと予想したが、蓋を開けてみれば頭一つ村田さんの作品が抜け出ていた評価となった。文学賞の選考というのは芥川賞に限らずなかなか難しく、小説は読者一人ひとりが作品の面白さを見出していくもので、万人が読んで面白いと思う作品は原理的にないと思う。その意味では今回の作品も、その面白さや魅力は読者一人ひとりによって開かれていく作品ではあるが、同時に一読して本当に面白い作品だった。

コンビニ人間(村田 沙耶香 )文藝春秋
コンビニ人間
村田 沙耶香
文藝春秋
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この小説はやや世間の常識からずれた、コンビニに勤める女性を主人公に、我々が当たり前に生きている世界を見返して批評している。自分の言葉で喋ったり、何かを欲望しているつもりでも、実は我々はおたがいを模倣しあうことによってこの世界を作っているのではないか、そのことをこの作品は面白く笑えるかたちで、ある意味では辛辣に表現している。ここに本当の面白さがあると感じた。

村田さんはすでに三島賞や野間文芸新人賞も受賞された実力のある作家なので、この程度は軽く書けますよというという感じではなかったかと想像するというか、ぜひそうであって欲しいと思う。そういう気配を漂わせて、これからもますます我々の度肝を抜くような面白い作品を必ず書かれるだろう」と述べた。

直木賞の伊集院静氏は「今回の候補作はベテラン勢が非常に多くて、その中でもベテラン中のベテランな荻原さんの短篇集は生活スタイルがオーソドックスで、どれも奇をてらうことがなく、一見地味には見える。だがたとえば表題作で主人公の床屋の親父が自分の人生を話す中で戦争中の話をした時に、理髪店というのは平和産業だからというので最初に兵隊に引っ張られたということが書いてある。こういうすっと流してしまいそうなところに実は人生の時間のすごく大事なことが書いてある。こういうシーンで、ああこの作家は上手いなと思う。

「いつか来た道」という短篇は、モーパッサンの「聖水授与者」という短い短篇に非常に似ているところがあって、良い小説というものは時代が離れていても場所が離れていても、本当に読んだ人を温かい感情と切ない人生のことを噛み締めさせるんだなと思った。ほんとうに良い作品でいい作家なので、みなさんどんどん仕事を注文して応援してあげてほしい」と語った。

受賞者の村田氏は「十三年前に群像新人文学賞の優秀作を受賞してデビューした時、会場にこういうふうに金屏風があって卒倒しそうになって、その時とにかく何か誓おうと思って、ずっと書き続けますとだけかろうじて言ったことを覚えている。同じように十三年後の自分が作家として金屏風の前でこうやって受賞の言葉を言わせていただいていることが奇跡のようで本当に感謝している。

この十三年間、私を支えてくれた言葉がいくつかあるが、その中でも印象的なのが恩師の宮原昭夫先生がおっしゃった、小説家は楽譜を書いて読者はそれを演奏してくれるのだという言葉だった。その言葉通り自分にとっては素晴らしい演奏をたくさん聞かせていただいた十三年間だった。その演奏を聞いて、また自分から小説が生まれてくるという、こちらがもらっているもののほうが大きいような十三年間だった。ここに立ってその感謝をお伝えできることをものすごく嬉しく思っている。

大きなことを言うようで恐縮だが、私はこれから人間が見つけてはいけない言葉を見つけるかもしれないし、見つけられたらいいなと思っている。誰を裏切ることになっても小説のことだけは裏切らないようにしようと思いながら受賞から一ヶ月を過ごしていた。今日、こんなにきらきらした場所でたくさんのものをもらったことは小説を書くことでお返ししていきたい。そして今日またこれからもずっと書き続けますと誓いたい」と思いを語った。

海の見える理髪店(荻原 浩)集英社
海の見える理髪店
荻原 浩
集英社
  • オンライン書店で買う
荻原氏は「この一ヶ月間というのはなんか慌ただしくて、いきなり収容所に連行されて慣れない流れ作業に従事しているようなそんな日々を過ごしていた。自分としては今までいただいたものと同じように、今回の直木賞もありがたく、また自分の何かが変わったわけじゃないんだから調子に乗るなよと自分自身を諌めているが、やはり反響はこれまでにないもので、いろんな方に自分のことのように喜んでいただいたり、懐かしい方に今回のことをきっかけに声をかけてもらったり、よく知らない人と急にお友達になれたり(笑)、そんなありがたい体験をした。それは本当に賞のおかげかなと思っている。ただ今日を境に平穏な日々に戻ると思うので、明日からは慣れない作業ではなく、今までやってきた地味に一行一行文章を積み重ねていくいつもの作業に戻らせていただこうかと思っている。

勝手ではあるが、何々賞受賞作だけでなく特に冠がないものでも、これがいいと思った作品があったら、これもいいぞと多少なりともスポットライトなり温かいご支援なりを向けていただければありがたいと考えている。今までだったらこういう負け犬の遠吠えみたいなことをみなさんの前で偉そうにお話出来るのは、賞をいただいたことで何よりありがたいことかもしれない」と話した。
この記事の中でご紹介した本
コンビニ人間/文藝春秋
コンビニ人間
著 者:村田 沙耶香
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
海の見える理髪店/集英社
海の見える理髪店
著 者:荻原 浩
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
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