現代日本の批評 1975-2001 書評|東 浩紀(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年1月20日 / 新聞掲載日:2018年1月19日(第3223号)

批評の自由を求めて 
「越境する知」としての批評

現代日本の批評 1975-2001
著 者:東 浩紀、市川 真人、大澤 聡、福嶋 亮大
出版社:講談社
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かつて批評は文芸批評だった。文学を語ることが社会を語ることであり、政治を語ることだった。しかし、そのような回路を結ぶことができなくなった。本書はその起点を1975年にさだめ、2001年までの批評を、東浩紀、市川真人、大澤聡、福嶋亮大の四人の討議でふりかえっていく。しかし、約四十年間の歴史は決して華やかなものではない。本書で東は批評を「観光客的な知」であり、「越境する知」であるとしている。必然的にその観点から歴史が描かれるが、それは苦闘の歴史であり、失敗の歴史だ。

柄谷行人、浅田彰らの座談会『近代日本の批評』が本書の元ネタになっているが、彼らが創刊した『批評空間』の評価は高くない。70年代以降、文芸批評の穴を埋めるかのように、哲学、社会学、人類学、心理学などのさまざまなジャンルの書き手が批評に参入した。そして、マンガや、SF、ミステリーといった純文学以外の場で文学性がつちかわれたが、時代の流れに逆行するように『批評空間』が文学の復権をとなえたため、批評の多様な可能性は失われてしまったという。

同じく自らの出自といえる東大表象文化論にも東は批判をむけている。出版市場が縮小した90年代後半、批評は大学に生き残りをもとめた。まず大学に研究があり、次に社会に向けて批評が発信されるという構図は、この頃に出来上がったものにすぎない。批評のアカデミズム化を象徴するのが、蓮實重彥の東大総長就任だった。

続刊として予定されている、2001―2016年以降の批評を扱った討議では、震災以降のデモや若手知識人とマスメディアの馴れ合いについて否定的な評価が下されている。討議全体の基調にあるのは、批評の自由を脅かすものへの鋭い批判だ。とりわけ近年の東浩紀はかつての吉本隆明をほうふつとさせる。東は会社を設立し、思想誌『ゲンロン』を刊行しているが、まさに批評の自由の実践だろう。吉本は『試行』を創刊したとき、乗り越えるべき敵として「商業ジャーナリズム」「アカデミズム」「政治組織」をあげていた。

山崎正和、江藤淳、小林よしのりなど『批評空間』が否定した論者が肯定的に言及されるなかで、とりわけ高いのは加藤典洋への評価である。

加藤典洋『敗戦後論』を発端とする高橋哲哉との論争は、現在では「歴史主体論争」と知られている。第二次大戦で「無意味」に死んだ自国の死者を追悼することでわれわれ日本人の分裂を克服し、ようやくアジアの死者に謝罪できるという加藤に対して、戦争責任の観点から批判をくわえたのが高橋だった。

東はこの論争に「大学の言説と批評の言説の差異」を見出している。加藤は「ひとがなにかを「語る」ときに、そして公共的であろうとするときに求められる、必然的な屈折やまちがいの話をして」おり、ゲンロンの取り組みとも重なっている。ところが、『敗戦後論』の平板な焼き直しである白井聡『永続敗戦論』が新しい議論として迎えられた現状は、このような「屈託」=文学性が必要とされていないことを示している、と。まさに批評の危機である。

ここで紹介できたのは本書の大まかな線だけだ。しかし、注意深い読者ならば、討議者の間にいくつもの異なる線が走っていることがわかるだろう。興味深い発言が多かったのは福嶋亮大だ。福嶋はしばしば「階級」に言及し、「これから、階級の問題はまた前景化してくるのではないか」と問いかけるが、東は「賛成です。しかしその結果、批評が豊かになるかどうかはわからない」とその兆候を認めつつも、批評の観点から否定的である。実際、『ゲンロン0 観光客の哲学』はトランプに象徴される政治的対立を乗り越えることを目指したという。PCに還元されない批評の可能性をみた『敗戦後論』は吉本隆明の自立思想のバージョンアップであり、それが政治に対抗するための批評の言葉だったことを考えれば、やはり東浩紀は小林秀雄―吉本隆明につづく日本の批評の後継者だといえよう。
この記事の中でご紹介した本
現代日本の批評 1975-2001/講談社
現代日本の批評 1975-2001
著 者:東 浩紀、市川 真人、大澤 聡、福嶋 亮大
出版社:講談社
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