神話と天皇 書評|大山 誠一(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年1月20日 / 新聞掲載日:2018年1月19日(第3223号)

神話と天皇 書評
天皇制の正体について正面から論じる 
「聖徳太子虚構論」の延長線上にある成果

神話と天皇
著 者:大山 誠一
出版社:平凡社
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神話と天皇(大山 誠一)平凡社
神話と天皇
大山 誠一
平凡社
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著者の大山誠一氏は、かつて古代史学界を揺るがせた「聖徳太子虚構論」で知られる研究者である。本書は、この「聖徳太子虚構論」の延長線上にある成果であって、我が国の政治・社会・経済・文化などに大きく影響した天皇制というものの、正体はいったい何なのか、いつ成立したのかについて、正面から論じようとする。

著者は従来から天皇制成立の中心にいたのは藤原不比等であり、その実現の場が『日本書紀』編纂事業だとする。すでに政治能力を失った王族のなかから草壁系の皇子だけをとり出し、これを神話によって神格化したうえで、外戚政策として婿にとり込み、太政官の覇権を掌握して古代の天皇制を成立させたと論じる。

よって、天皇制の解明のためには、出雲神話、国譲り神話、天孫降臨神話の研究が必須であり、また現実の国土を神話の舞台とすることによって神話を流布させたとの主張を前提として、天皇制とその根拠の記紀神話について、あくまでも学問的に追究するのである。

本書は、このような問題意識を反映して、第Ⅰ部「天皇制」として、(1)「伊勢と出雲」、(2)「天皇制」、(a「天皇制とは何か」、b「天皇制の成立」)、第Ⅱ部「記紀神話の解明」として、(3)「記紀神話の構造と問題点」、(4)「天孫降臨神話」、(5)「出雲神話」に大別して論述されている。それでは、内容を順次紹介してゆこう。まず、著者は(1)では、記紀神話は天皇の唯一の正当性の根拠だが、その物語のなかのアマテラスとスサノヲはもともと伊勢や出雲で祭られていた神ではなく、民衆に流布させようとした意図のもとに作られたとする。(2)aでは、天皇は神話により神格化された至高の存在だが、実質的な権力をもたないからこそ天皇制が存続してきたのであるとする。その論拠として、国家意思の決定の場が太政官であり、天皇の公私を支える機関も太政官に直属する中務省と宮内省に編成されていることなどを挙げている。(2)bでは、このような構想のもとに天皇制が成立したのは、天武十年(六八一)二月の天武天皇が律令の編纂を命じ、草壁皇子が皇太子となり、翌月に歴史書の編纂が命じられた時であり、その中心には大宝律令編纂への関与に先立って、すでに浄御原令段階で編纂に参加していた藤原不比等がいたとする。ただ、不比等はこの時は二十四歳とまだ若く、持統朝に台頭してくるという通説的理解とは乖離する。

(3)では、国譲りから天孫降臨へという神話は王朝交代を意味しており、それは乙巳の変を想起させ、中臣鎌足が国譲り神話で活躍するタケミカヅチと酷似していることから、鎌足の乙巳の変での行動が国譲り神話に、さらに不比等による草壁直系の擁立が天孫降臨神話に投影されていることは確かだとしている。そして、タケミカヅチは常陸国の鹿島神社の祭神となり、これを定着させたのは藤原不比等の息子の常陸守であった宇合であり、大和の名族の祭る神が出雲に追放され、皇室の祖神であるアマテラスが伊勢に遠ざけられ、平城京に隣接した春日の地にタケミカヅチを祭る春日大社が成立するという「神〓革命」を成し遂げたのは藤原不比等だと推考している。

(4)では、蘇我王権が乙巳の変で倒され、息長王家が成立し、息長王家のなかから不比等が草壁直系の王家を擁立し、これを利用して天皇制が成立する。これらが順に出雲神話・国譲り神話・天孫降臨神話となって、藤原不比等が構想した天皇制の成立過程を説話的に示した記紀神話が成立すると説く。(5)では、出雲神話は、天孫降臨神話を正当化し必然化するために創作されたとする。しかし、スサノヲの原像は、蘇我王権を象徴する紀伊国のイタキソ神社の祭神であるイタケルであり、いったん紀伊で成立したスサノヲは、葛城のオホナムチとともに出雲に移され、忌部子首らによって出雲大社の創建が行われて、『日本書紀』の神話は完成したとしている。

随分と簡略だが、これでもう紙幅が尽きた。

つまり著者大山氏は、天皇制とは、七世紀末の段階で藤原不比等が草壁直系の王族を擁立し、その天皇を神格化し、これを利用して権力を掌握するために行った政治システムだとするのである。この論旨を素直に首肯する読者はそう多くはないかもしれない。しかし、それは大山氏の今までの研究から紡ぎ出された成果に立脚したものであり、それに謙虚に向きあうことの必要性を指摘しておきたい。

最後に評者の浅学さから本書の意図を十分に理解せず、また曲解したところもあるかと思う。大山氏のご海容をお願いする次第である。
この記事の中でご紹介した本
神話と天皇/平凡社
神話と天皇
著 者:大山 誠一
出版社:平凡社
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