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八重山暮らし
更新日:2018年1月30日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

八重山暮らし(26)

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石垣島に移住後も鳩間の女性は糸芭蕉を育て、着尺を織り続けた。

(撮影=大森一也)
鳩間を想う織物


その人のやわらかな語り口が、今も耳に残る。
「あの頃、島を小さいと思ったことは、一度もありませんでしたねぇ…」

周囲がわずか3・9キロの鳩間島に生まれ育った。かつて島は海の民として誉れ高く、帆舟が人びとの足代わりとなっていた。黒潮と珊瑚礁がもたらす海の幸、南に位置する西表島の山や川の恵みに潤う日々を送った。
「そう、生まれ島は果てしなく広く見えましたよ…」

海と人とが、ひとつとなる時代を真摯に生きた。

彼女が初めて手がけた織物は、神役の衣装「バサキン(芭蕉着物)」であったという。数えの18歳で10人の大家族のもとへ嫁ぎ、間もなく島の神事を司る大役まで務めることとなったのだ。初の儀式「神開き」の日は迫り、祖母の用意した芭蕉を経糸にし、緯糸は自ら績んだものを入れながら織り続けた。それでも足りない手績みの芭蕉糸を近所の婦人たちが惜しげもなく譲ってくれた。
「神開き」の数日前、ようやっと織り上げた着尺を自身の神衣装に仕立てた。屋敷の香炉に供え、家族と共に貴い手仕事を祝った。
「幼い頃から諭されました。胸の内にも島の神が宿っている。そういう想いで生きて仕事もしなさいと」

風を通すため縁側に下げたバサキンを見つめ、彼女はしっとりと微笑んだ。
(やすもと・ちか=文筆業)
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