対談=石井光太×末井昭 桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか 『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年1月26日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

対談=石井光太×末井昭
桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか
『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に

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第2回
■人間関係を築く土台がない

末井 昭氏
末井 
 この事件を機会に、何度か川崎に行ったのですが、海外に移転した工場跡地に、ボーンと四〇階建などのすごく大きなマンションができるでしょう。その足下に、玄関出たらすぐ道路、みたいな一戸建てが貼りついている。それが、人と人のつながりが断たれた、無情な風景に見えてしまって。半分想像ですが、昔は家々を包むように横町があって、頑固おやじがいて、目の端で子どもたちのことを見ていてね、親以外の人にも普通に怒られる環境がありましたよね。その中で社会で生きていくために必要な礼儀を教わったり、救われることもあったかもしれない。
石井 
 川崎区は工場地帯として有名ですね。高度成長期には、全国から労働者が相当数集まって来たとか。
末井 
 僕もその一人です。
石井 
 ところが最近は不景気で工場がどんどん閉鎖され、その影響もあるのか、生活保護受給率の全国平均一・六九%に対し、川崎区は四・九九%。高齢化も進み、要介護者の人数や支援サービスの利用も、他の区より多いそうです。

この地区の特徴はもう一つ、外国人の人口が多いことですね。川崎区の海側の地区は、かつて「朝鮮人部落」と呼ばれていて、歴史的に外国人が集まってくる場所になった。虎男や剛の母親もそうですが、今は東南アジアの人々が増えている。

かつて川崎は末井さんがおっしゃるように人情でつながる町だった。でも、今は高齢化、貧困、多文化、虐待といった様々な要因でバラバラに孤立している側面があります。そうした中で犠牲になるのが子ども。彼らは不登校になってゲームセンターでつるみ、居場所を求めて夜な夜な街を徘徊する、ということになる。
末井 
 遼太くんのつるんでいた仲間たちは、集まっても会話らしい会話をせず、星哉(少年C)と虎男は、ぬいぐるみを介して話をしていたというエピソードもありましたね。

エピローグには黒澤について書かれていますが、石井さんと待ち合わせた居酒屋に来て早々、うめえ、うめえとから揚げを貪り食って、いつもつるんでた仲間たちの事件についても、軽い言葉しか出てこなくてね。黒澤で一冊読みたいと思ったくらい衝撃でした。これは社会から外れた者どうし集まって、友達づきあいをしていた中で、起こってしまったいざこざだったのか、というと、そう単純ではないのだと。  
石井 
 驚くのは、加害少年やその仲間たちが、誰もお互いのことを友達だと思っていないことです。週に三日も四日も会って、夜じゅう一緒にいて、それ以外もLIENやオンラインゲームでつながっているなんて、へたしたら恋人や夫婦以上に親密な関係です。なのに友達だと思っていない。

彼らは人間関係をほとんど築けないんです。そうしたことを子ども時代に経験してこなかった。だから、仲間は寂しさを紛らわすゲームの相手でしかなく、信頼できる「友達」じゃない。

そのくせ、ものすごく寂しがり屋です。黒澤にインタビューしても、数時間後にLINEで連絡があって「話し忘れたことがあるので会おう」と言ってくる。別の日に約束すると何時間も遅刻する。そのくせ謝りもせず、ひょっこりやってきてまたベラベラと自分のことばかりしゃべって別れるんですが、またLIENで会おうと言ってくる。

端的に言えば、人と信頼を持ってつながれないのに、自分を認めてもらいたい欲求だけは何倍もある。
末井 
 確かに、異様さが際立っていました。
石井 
 他の連載で少年院を取材しているのですが、社会復帰のために、「信頼」とは何か、というところから教えるんですよね。そのために、「信頼」「信用する」「裏切らない」などと、逐一書かれている「感情カード」というものを、百枚程渡します。言葉を持たない少年たちに、一つ一つカードにして示すのです。「今、この人間関係を成り立たせるには、これとこれとこれをしなければいけません」という具合に。そしてそれを日記に反復させる。その繰り返しです。残念なことに、与えられた更生期間は一年程しかないのですが。
末井 
 それは大変ですね。まるでAIにプログラムしていくみたい。ただAIならば着実にインプットされますが、結果としてちゃんと社会復帰していけるんですか。
石井 
 難しいですよね。十七~八歳になってから、感情カードやっても……。教官たちは、意味があると信じなければ、やりきれないでしょうが。
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この記事の中でご紹介した本
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層/双葉社
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層
著 者:石井 光太
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
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