対談=石井光太×末井昭 桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか 『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年1月26日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

対談=石井光太×末井昭
桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか
『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に

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第3回
■いじめに遭ったら自殺しないとあかんのや!

末井 
 黒澤も含め少年たちの生活はすべてが「ヒマつぶし」みたいですよね。つるんでいるのもヒマつぶしだし、ゲームもアニメもヒマつぶし。今は頭がヒマなまま一生を送ることが、許される時代なのかもしれませんね。僕は高校を出て働き始めたのですが、若い頃はとにかくお金を稼いで、食っていかないといけなかったから、ヒマつぶしみたいな感覚はなかった。そういう状況がありえない時代だったんです。
石井 
 彼らは、当たり前のように実家に住んで、フリーターをしています。

今回の事件で不思議だったのは、みんな見た目も含めて「不良」ではないところ。いわゆる、いじめられっ子のオタクなんです。会話はほぼすべてアニメかゲーム。主犯の虎男は少し不良っぽい外見をしていましたが、他は秋葉原にいそうな子ばかりです。いわゆる「殺人鬼」の印象はない。

なのに、虎男は酒に酔って平常心を失い、些細な誤解から遼太くんをフルボッコにしようとする。そんな時に、星哉にカッターを渡されて切りつけ始めるのです。遼太くんが流血しているのを見て、捕まりたくないからいっそう殺そう、と考えますが、すぐ自分じゃ殺せないと思って、剛や星哉にもカッターを渡して切らせる。彼らも嫌々ながらそれを手伝うわけです。

なぜ虎男は殺す勇気がないのに、やめなかったのか。なぜ剛は加担したくなかったのに、呼び出しに応じて遼太くんを切りつけたのか。

彼らはお互いのことを友達だと思っていない。信頼もしていません。むしろ、嫌がっている面もあった。それなのに、グループの関係から逃れられなかったんです。

なぜでしょう。彼らにはそこしか居場所がなかったからです。そこでしか自分の存在意義を見出せなかった。だから殺人に加担したのです。
末井 
 僕は、遼太くんもそのとき自分のことを、「暴力を受けるべき存在」と感じていたように思うんです。もちろん論理的にそう考えていたわけではないだろうけど、「殺される存在」として、そこに居続けてしまったと思うんです。
石井 
 そうかもしれません。
末井 
 遼太くんは犯行の途中、たくさんの傷を受けた体で、裸で極寒の多摩川を泳がされている。ひどい話だけど、島育ちのせいか、川の半分まで泳いでいるんですよね。本気で逃げようと思ったら、向こう岸の蒲田まで行けたのではないか。でも戻ってこいと言われて戻るんだよね。結局、遼太くんは何度切られても、その場を離れなかった。

ところが彼らが自分を放置して去った後、土手を登ろうと川べりから二三・五mも這って力尽きた、と。

先日、石川県の東尋坊という自殺の名所に取材に行きました。そこにしげさんという、自殺を、体をはって止めている人がいるんです。茂さんはもう六〇〇人ぐらい助けているのだけど、そのうち二〇数人が高校生です。いじめを理由に東尋坊に来た子も結構いて、茂さんは僕にこう言うんですよ。「いじめに遭ったら自殺しないとあかんのや!」。

どういう意味か聞いても、理由を語ってくれないから、想像するしかないんだけど、いじめがはじまってしまうと、いじめる方もいじめられる方も、各々の役割から逃げられない。いじめられている子は自殺する役割が暗黙の内に定められていて、まわりも役割として自殺へと押しやっていく。死にたいわけではないけれど、その役割を全うする、という心理に追い込まれる、というような。
石井 
 特攻隊の精神性にも似ているような……。
末井 
 言い過ぎかもしれないけれど、そういう異様な力が、いじめの現場には働いているのではないか、と想像しているんです。そして、自殺したら英雄になれるんですよ。

本当のところは茂さんに聞かないと分からないけど、茂さんはたいてい酔っぱらっているから。ストレスがあるのだと思います。今まさに死のうとしている人を、死の淵から引っ張ってきて、この先の人生を生きさせるのだから。再出発まで面倒を見るんです。
石井 
 すごいですね、NPOなんですか。
末井 
 今はそうですね。警察官を定年した後、もともとは個人で行っていました。自分のお金でアパートを借りて住まわせたり、就職先を見つけてきたり。
石井 
 末井さんの仰る通りだと感じますね。遼太くんも、少年たちとの関係から逃げられなかった。少年たちから逃げたところで、他に行く場所がなかった。小さくて狭くて、最後にはこれ以上ない苦しい場所になってしまったけれど、そこさえ失ったとき、最後の居場所をなくしてしまうから。だからこそ、四三回カッターで体を切られても、あの場から離れられなかった。居場所を失うのが怖くて留まっているうちに、殺されてしまったという感じに近い。その場にいる全員が、死に向かう狭い狭い一点へと、凝縮していってしまったわけですね。
■切実な「愛人問題」

末井 
 今さら言っても仕方ないけれど、遼太くんはどうして他に、居場所を見つけられなかったんですかね。バスケットボールに夢中になっていた時期もあった。なぜ止めてしまったんですか。
石井 
 僕は、要因の一つには、母親の恋人の存在があるのではないかと思います。夏休みに祖父母の家から、マンションに引っ越しているんです。それで3LDKのマンションに、母の恋人が一緒に住み始める。居づらいですよね。母親も母親なりに一生懸命だったのだとは思いますが。遼太くんが境遇の似た、行き場のない少年たちと遊び始めるのが二年生の二学期。そこから、だんだん部活に出なくなり……。
末井 
 最後には学校にも行かなくなる。
石井 
 年末に虎男たちと会って、それから一週間ぐらいで三学期が始まりますが、そこで学校に行かなくなるんです。
末井 
 事件が起こるのが二月末。坂道を転がるみたいに、最悪の方向へ進んでしまった。
石井 
 先日、福岡の女子少年院に取材に行ったのですが、話を聞いた子のうち半数が、小六か中一の夏休みの後からグレるか不登校になるかしたと言っていました。それもシングルマザーと暮していた家庭に、恋人が入ってきたことがきっかけだったと。

剛も同じ境遇です。多感な思春期に母親の恋人に「親」と「家」を奪われ、そこからどんどん狭い苦しい世界に、追い込まれていく。

家の外にそんな子が居場所を作れるか、というと難しいですよね。金八先生が現われて抱きしめたところで、家に愛人がいて、親が自分のことを見てくれなかったら、寂しさは埋められない。同じ境遇の少年どうしで群れて寂しさを紛らわす気持ちは理解できます。
末井 
 そうですね。
石井 
 行政機関は夜はクローズしてしまうし、愛人がいる家にまっすぐ帰ろうとは思わないでしょう。結局、夜の街を徘徊するしかない。もちろん、離婚や再婚を経てうまくやっている家庭もあります。でもうまくいかないとき、そのひずみは弱い者が引き受ける。子どもにとって、家庭に居場所がないということは致命的なんです。
末井 
 これがホントの愛人問題。
石井 
 親は「独身だから恋愛は自由」と言うでしょう。でも思春期の子はそう受け取りません。親に言いたい。あなたが恋愛の自由を謳歌するのは勝手だが、その犠牲になるのは子どもだ、と。親が自分の幸せばかり考えて、子どもと向き合っていない。社会に「親を叱る大人」が不在になっていることが問題なのでしょう。
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この記事の中でご紹介した本
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層/双葉社
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層
著 者:石井 光太
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
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