対談=石井光太×末井昭 桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか 『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年1月26日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

対談=石井光太×末井昭
桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか
『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に

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第5回
■刹那的凶器絶望へ続く逃げ道

末井 
 もう十年も前ですが、『希望格差社会』という本がありましたね。この言葉を聞いたときに、愕然としたんです。希望だけは誰にも平等にあるように思っていたけれど、そうではない。希望にも格差があるのかと。
石井 
 以前、覚醒剤の売人の親の元で育った女の子と会いました。彼女も覚醒剤中毒です。その子に将来は何をしたいかと尋ねると「古紙屋をやりたい」と。古紙を集めて、工場などに売る仕事です。どうしてかと聞いたら、母の愛人のヤクザが高齢になって組を追い出されて古紙屋をして食いつないでいた。その手伝いを一度したことがあるから、自分でもできると思うと。たぶん助手席に座っていただけでしょうが、彼女の社会との接点はそこしかないのです。だから、将来の夢を聞かれて、それしか出てこないんです。看護師学校や職業訓練校など、無料あるいは安価で学べるところがあるし、せめてコンビニとかラーメン屋とか、働く場所は他にもあるんだよ、と話しても、シャットアウトしてしまう。

それはたぶん、ケネディやブッシュの子孫がアメリカ大統領になるという選択肢を持っているのに対して、僕らが持てないのと同じなんです。狭い状況の中で育ってきた人たちには選択肢がないんです。
末井 
 古紙屋を目指す時点で、運気下っちゃいますね。希望が持てれば、まだ救いがあると思うんですけれどね。

僕はちょっと、川崎の少年たちと自分とを重ねるところがあるんです。僕も居場所がなかったから。田舎から川崎に出て来たけれど、工場にも友達はいなくて、その頃の自分と重なるところがあるんですよね。だから僕は、殺された方はもちろん、殺した方も同情しちゃうんですよ。
石井 
 あの結末は、幾度考えてもやりきれないですよね。なぜ遼太くんがあの場から逃げずに、四三回切られ続けなければならなかったのか。桎梏の、闇の、ごく細い小さい場所に、全員がギスギスと窮屈に押し込められて、もうどうしたらいいか分からない状態の中で、気づいたら一人、首をメッタ切られて死んでいた。犯人たちの罪を正当化するつもりは全くないのですが、なぜかこの事件を考える時、そういうイメージが浮かんでくるんです。
全員が居心地いいはずがないし、ここにいても何もないということが分かっているのに、どうしてそこに居続けなければならなかったのか。それでも、人は人を必要とするのか。彼らは、できれば楽しく生きていきたいと思って集まったんでしょう。それにもかかわらず、殺し、殺されてしまった。この結末は、無情以外の何物でもありません。
末井 
 虎男も、どれだけ残忍な奴なんだ、と思うと、顔はやさしそうだしね。ところが酒を飲んだときの「刹那的な狂気」、これを抑えられなかった。
石井 
 自殺未遂をした人や医師に話をきくと、ある種の人にとって、麻薬や大量のアルコールなどが、辛い状況を生き延びるためにどうしても必要なことがあるのだと。それはいい悪いではなく、事実としてそうだと。人を狂気へと導くものが、人によって時に、なくては生きられないものにもなる。保護観察中の虎男と星哉。ゲームも正直飽きてくるだろうし、自分たちの未来が暗いことはどこかで分かっていて、そういう現実から逃げるために酒を飲んでいたのではないかと想像します。虎男にとって、自分をひととき解放してくれるアルコールが、一方では狂気を生む材料だった。酒が彼にとっての逃げ道だった一方で、彼を追い詰めるものでもあった。

そういう狂気は、この世の中のいたるところに転がっていますよね。死にたくない、絶望したくない。ところが生きようと手を伸ばしたものが、暗い闇につながってしまう。どうしたらいいですかね。
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この記事の中でご紹介した本
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層/双葉社
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層
著 者:石井 光太
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
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