対談=石井光太×末井昭 桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか 『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年1月26日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

対談=石井光太×末井昭
桎梏の絶望漆黒の闇、光は待つか
『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)刊行を機に

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第6回
■行き場のなさを受けとめる

末井 
 まぁ救いようがないですよね。救いがないということを、認めてしまった方がいいと思います。「もう、どん底だ」という認識が、必要なのではないですか。

ただ、茂さんみたいな人がいることは、ありがたいよね。世の中までは動かさないかもしれないけれど、ちょっと何かが変わるかもしれない。
石井 
 六〇〇人もの命を救っているのは、すごいことですよね。エクストリームな人物が世の中には必要なんです。でも、現代社会はエクストリームな人間を排除して、均一化させたところがありますよね。
末井 
 そう、それで面白い人がいなくなった。茂さんは、すごく荒っぽいんですよ。飛び降りようと思っている人を止めるわけだから、喧嘩になる。茂さんは首根っこをカクまえて引きずって、自分が営業している茶屋に連れて行く。それはもう逮捕じゃないのって(笑)。でもそこで話をして、目が覚めて、死ぬのを止めることがあるわけです。「相手は死のうとしてんだよ」って、茂さんは涙を浮かべながら話すんです。そういう熱くて激情的な救いの手が、少なくなっているのではないかと思います。世の中がクールで知的になって、心より頭の方が先に働いてしまうというか。
石井 
 そういう思いを持った人がいないわけではないと思いますが、社会のしめつけが強すぎて出てこられない。また、本当にエクストリームな人間を無理やり抑えつけてしまうと、その人たちのエネルギーは別のところに向いてしまう。たとえば、夜回り組長を抑えたら、本物の組長にもどるだけなんです。個人の活動と公の力のバランスも難しいですね。
末井 
 なかなか希望のある話にならないけど、希望らしきものを語ってしまうと、全て嘘になるような気がするんです。この先に、何か本当の、小さな希望が待っているのかもしれないけれど、まずは行き場のなさを受けとめるべきなんじゃないかな。だからこの本を読んだらいいと思う。読めば必ず行き場のない気持ちになりますから(笑)。
石井 
 (笑)。先ほど末井さんは、自分と少年たちを重ねた、とおっしゃったけれど、でもやはり根本が違いますよね。例えば、孤独の捉え方とか。
末井 
 僕は孤独は人を豊かにするものだと思います。ただ、一人でいることで何かを考えたり、本を読んだりするから必要なのであって、孤独が孤独としてそのままあるなら、それはたぶん必要ないですよね。
石井 
 それもきっと、帰る場所があればこそです。酸素ボンベと命綱があって、陸に上がれる保証があれば、スキューバダイビングも気持ちがいい。そうでなければ溺死ですから。
末井 
 学校で、ダメ元で、孤独って悪いものじゃない、と教えたらいいんじゃないかな。孤独を彼らは恐れているようだけど、一人でいてもいい、と肯定する見方があれば、無理につるむ必要もなくなる。
石井 
 孤独の時間は、自分を見つめる時間でもありますよね。

実は、今日ここに来る前に、川崎を拠点にした地域包括ケアのプロジェクトの会議に出てきました。東大や上智の研究チームと、川崎市役所の人たちが一同に会してセーフティーネットの在り方を議論した。僕はちょっとそのプロジェクトにかかわっているんです。皆、とても熱いです。川崎の現状や、遼太くんの事件をそのままにせず、地域をよくしていきたいと本気で考えています。

僕は川崎で福祉の仕事をしていて加害少年たちや、その家庭とかかわっていた人も知っています。彼らもみんな熱い思いを持っている。何が言いたいかといえば、支援者と被支援者は顔の見える距離にいるんです。社会を良くしようと考えている人はごまんといる。

しかし、無線の周波数が違うみたいに、同じ空間に飛んでいるはずの電波が交わらない。支援者と被支援者が交わらないんです。なぜなのか。それぞれが立つ土台が違って、別々の方向を向いているので少しずつズレてしまっているんです。でも、チャンネルを合わせることができれば、両者が向き合い、いい方向へ向かうのではないかと思います。とはいえ、今は歯がゆさを感じている段階です。
末井 
 川崎が日本のブロンクスみたいにならないかですか? ブロンクスは移民が多く非常に犯罪率が高かったNYのスラム街ですが、ヒップホップが発祥した地域として、今は観光地化されているんです。虎男と同じ中学出身のラッパーがいたでしょう。「BAD HOP」のメンバーで、彼も当時は札付きのワルだったとか。川崎もブロンクスみたいに、路上で皆がヒップホップやっている町になればいいのに(笑)。
石井 
 ちょっとだけ明るい話で終われましたね(笑)。    (おわり)
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この記事の中でご紹介した本
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層/双葉社
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層
著 者:石井 光太
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
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