トオリヌケ キンシ 書評|加納 朋子(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年1月27日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

加納 朋子著 『トオリヌケ キンシ』
大正大学 沢田 明日香

トオリヌケ キンシ
著 者:加納 朋子
出版社:文藝春秋
このエントリーをはてなブックマークに追加
人は誰しも、どうしようもない困難に直面することがある。友達と喧嘩したり、仕事が全く上手く行かなかったり、いじめに遭ったり、事故で大怪我をしたり。時にそれは真っ暗闇の迷路に迷い込んだようで、出口がない、と立ちすくむこともある。本書は、そこから出口を見つける6つの短編を収めた作品集だ。

この物語の登場人物たちは、いわゆる「普通」の人ではなく、少し周りと違う病気や障害を持っている。人の顔が見分けられない少年に、共感覚を持つ女子高生、幼児虐待の記憶に怯える青年、突然「座敷童がいる」と言い出す老人。彼らは時に生まれついて、時に唐突に「ありふれた人生」からズレた日常を歩むこととなる。著者の加納朋子自身、数年前に急性白血病を発病し、骨髄移植を受けた。本書には、その経験が直接活かされた短編もある。だが著者がそのとき抱いたであろう「日常から切り離された」感覚は、本書に掲載されたすべての作品から感じ取ることができる。理不尽に訪れた難病と向き合った著者だからこそ、描かれた人物たちのもがきは痛切で、胸が詰まる。

この作品たちが、すべて日常に寄り添ったものである点も重要だ。登場人物たちが生きる日常はきわめてリアルである。そして現実と地続きの日常として描かれているからこそ、そこからちょっと違っていたり、切り離されたりする人々の存在が、ともすれば私たちと同じ街に暮らしていてもおかしくないくらい身近に感じられる。病気や障害も単なる舞台装置ではなく、あくまで彼らの日常の一部なのだ。これは決して遠い世界の物語ではない。落とし穴はたくさんあって、ちいさく躓いただけで、思いがけないほど深い闇に突き落とされることだってある。そして、たとえ自分にどんな困難が襲い掛かろうとも、世界はいつも通りに回るし、カラフルな出来事に人々は胸を躍らせる。世界を見渡せば、穏やかに長生きする人も、自由に人生を楽しむ人もたくさんいる。一方で、難病に苦しむ人も、すべてが嫌になって自殺する人も同じくらいたくさんいる。誰だって、いつ何時この不平等で不合理な世界の裏側に迷い込むのか分からないのだ。

だからこそ、主人公たちが辿り着いた出口は、私たちにも救いをもたらす。出口へと導いてくれるのは、家族や友人、ご近所さんなどの身近な人々だ。その無償の愛は、人と人との繋がりがどれほど大切なことかを教えてくれる。そしてその先へ進むのは、その愛に背を押され、前を向いた主人公自身である。出口の前で佇んでいても何も変わらない。それが分かっているからこそ、暗闇をさまよっていた、あるいは立ち止まっていた主人公たちは、勇気を出して一歩踏み出す。それは同時に、ともに理不尽な世界を生きる私たちへの応援でもある。

もし袋小路に迷い込み、世界を信じられなくなったならこの本を読んでほしい。出口はかならず、どこかにあるのだから。
この記事の中でご紹介した本
トオリヌケ キンシ/文藝春秋
トオリヌケ キンシ
著 者:加納 朋子
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
【書評キャンパス】大学生がススメる本のその他の記事
【書評キャンパス】大学生がススメる本をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 俳句関連記事
俳句の関連記事をもっと見る >