壊れゆく資本主義をどう生きるか 人種・国民・階級2.0 書評|若森 章孝(唯学書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年1月27日 / 新聞掲載日:2018年1月26日(第3224号)

意欲的な議論を展開 
危機の様相を深める現代資本主義をどう把握するか

壊れゆく資本主義をどう生きるか 人種・国民・階級2.0
著 者:若森 章孝、植村 邦彦
出版社:唯学書房
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まず著書の二人について紹介する。若森章孝氏は、『資本主義発展の政治経済学:接合理論からレギュラシオン理論へ』(関西大学出版部、一九九三年)をはじめとする著作によって、現代資本主義論の最先端を絶えず切り開いている経済理論研究者であり、植村邦彦氏は、『市民社会とは何か:基本概念の系譜』(平凡社、二〇一〇年)によって、この国の一部に蔓延していた「市民社会的マルクス主義」という迷妄を吹き払った社会思想史研究者として高い評価を受けている。本書では、関西大学経済学部を拠点とするこの二人のベテラン研究者が、危機の様相を深める現代資本主義をどう把握するのかについて、日頃の研鑽を基礎にして深く掘り下げた議論を展開している。

本書は、第一章「新自由主義と自由、民主主義」(若森)、第二章「国民/ナショナリズム」(植村)、第三章「人種/レイシズム」(植村)、第四章「階級/階級闘争」(若森)、第五章「『資本主義の終わり』の始まりとオルタナティブ」(若森)の五章から構成されている。各章は論文部分と討論部分からなっていて、論文部分では、括弧内に記された論者が各章のテーマについて報告をおこない、その後の討論部分で、テーマの意味が両者の討論によって敷衍されている。読者はこのライブ感溢れる議論を楽しむことができる仕組みになっている。

本書は E・バリバールとI・ウォーラーステインの共著の翻訳『人種・国民・階級:「民族」という曖昧なアイデンティティ』(若森章孝ほか訳、大村書店、一九九五年)が、二〇一四年に唯学書房から再刊されたのを機縁に、それを「アップデート」するものとして企画された若森・植村共同研究の成果である。この共同研究のモチーフは、「専門にこだわらずに貪欲にあらゆる本を読んで、新しい現象とか世界的な出来事について考え抜く、討論し合うということが大事だ」(三六二頁)というものである。このような意図で編まれた本書は、両者の膨大な読書の成果を凝縮したもので、現代資本主義の問題点に関する実に多様な論者の主張がピックアップされている。しかもそれを素材として、近代資本主義と近代国家の歴史的展開を理論的に把握しようとする意欲的な議論が展開されている。本書のタイトルだけを見ると水野和夫風の軽い読み物という印象を受けるかもしれないが、なかなかに歯ごたえのある重厚な内容である。

各章の議論を詳しく紹介する余裕がないので、注目すべき論点のみを示しておく。EU統合におけるオルド自由主義の役割の大きさの指摘(第一章)、ナショナリズムの出発点としてのJ・J・ルソーという理解(第二章)、「国民の人種化」と「国民のエスニック化」という把握(第三章)、アイスランドの「鍋とフライパン革命」の紹介(第四章)、そして、北欧社会民主主義の持続する有効性の確認(第五章)等が印象に残っている。これ以外でも様々な論点が検討され、読者は自分の思考を触発される。

本書における論点の多様さは論点相互の関連の説明の不十分さを伴っていて、それが理解を困難にしている面も否めない。また世界システム論を基軸として考えるとすれば、それとは異質だと見なされる所論(R・ルクセンブルクの世界資本主義論、B・アンダーソンのナショナリズム論、A・ネグリとM・ハートの〈帝国〉論、等々)を、世界システム論に無理に繋げようとして論理的な接合不全(=脱臼)を引き起こし、ある程度の知識を既に持っている読者に困惑を与えている場合もある。

しかし、そこから生ずる違和感も、それを自力で払拭しようとする努力を刺激し、自分で調べて、自分で考えてみようとする意欲を掻き立てることによって、読者が現代資本主義の将来についてより深い理解に達することを援助するものになっている。チャレンジ精神溢れる読者にとって、最適な案内書といえよう。
この記事の中でご紹介した本
壊れゆく資本主義をどう生きるか    人種・国民・階級2.0/唯学書房
壊れゆく資本主義をどう生きるか 人種・国民・階級2.0
著 者:若森 章孝、植村 邦彦
出版社:唯学書房
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